推進力のバランス。

スパーズとガンナーズ。ともにロンドン北部に本拠地を持つクラブであります。


 ただ,クラブ創設以来の成績を見てみると,スパーズはガンナーズの足元にも及ばない。残念ながら,事実であります。


 あまり知られていないことですが,アーセナルは1920年以来トップリーグ(1992〜93シーズンまではディビジョン1,1993〜94シーズン以降プレミアシップへ)から降格していない。もちろん,リーグ戦の最終順位に上下動はあるものの,80年を大きく超えるシーズンを通じて決定的な破綻をきたすことなくチームがマネージメントされてきたことを示すものだろうし,1930年代にはリーグタイトルを連続して獲得するなどチャンピオンズ・カップを掲げること5回を数える“ゴールデン・エイジ”を経験してもいる。恐らく,イングランドの中でも有数の安定した成績を誇るクラブ,と評価して良いでしょう。


 ではありますが,「危険」がなかった,というわけでもありません。


 現指揮官であるアーセン・ヴェンゲルが就任する以前,つまりプレミアシップが立ち上がった1993〜94シーズン以降を見てみると,成績はかなりの乱高下を見せています。上位をうかがえるか,というポジションに付けたかと思えば,その翌年には中位をさまよい,ケースによっては長きにわたって降格していなかった,という事実に終止符を打たねばならない,というところが見えたのかも知れません。そんな危機感が,ヴェンゲル招聘の裏側にはあった,と見るべきだろうと思います。


 そう考えると,ヴェンゲル招聘以後のガンナーズは「欧州」というものを明確に意識し,またタイトルを常に意識したクラブに変わったように見えます。


 確かにそうだろうと思います。確かに強さを持ったクラブへと変貌を遂げたのかな,と。ただ,90年代のマンチェスター・ユナイテッドのような印象が薄い。


 東本さんはコラム(スポーツナビ)の中で「非イングランド化」(=国際化)というキーワードを提示されていますが,ワタシはそれとともに「アカデミー(ユースなどの下部組織)の力がトップ同様に強化されていない」ように感じます。特にユナイテッドはアカデミーのパワーが強烈であったことがトップに波及することで“ゴールデン・エイジ”を築き上げたことは間違いないところでしょう。


 クラブをヒコーキと見れば,一方のエンジンがトップチーム,もう一方のエンジンが下部組織ではないかな,と思うのです。一方のパワーを引き上げようと思えば,当然もう一方のエンジンも同時にチューンしなければ機体全体としてのバランスが崩れてしまう。その影響がどう出て来るかは機体(クラブ)によって異なってくるのでしょうけれど,ガンナーズが一時期のパワーを失った,というのはイングランドの選手,特に若い選手を上手に育成しトップに引き上げている印象がここ数季薄い,その裏返しなのかな,と思うのです。