マイクロソフト・カップ準決勝。

全国クラブ大会を見ているわけですから,当然ながら秩父宮開催分に関して書いていくわけであります。


 事実上の決勝戦という下馬評もあった「東芝府中ブレイブルーパスNECグリーンロケッツ戦」であります。確かにそういう評価の相応しい,緊張感あるゲームではありました。


 ただし,途中からですけどね。


 立ち上がりだけを取り出したりすると,「ちょっともったいないゲーム」だったかな,という部分もあるのです。ブレイブルーパスグリーンロケッツともにマイクロソフトカップ奪取に向けたモチベーションは非常に高いように感じましたが,そのモチベーションが100%フィールドに伝わっているようには感じられなかった。前半開始からしばらくの間,互いのモチベーションが空転しているような感じがあったのがちょっともったいなかったかな,という感じがしたひとつの要因であります。


 そして,もうひとつ「もったいないな」と思ったのが,NECの戦いぶりでありました。


 マッチ・スタッツに表われる客観的な数字だけを取り出してみれば,東芝府中とNECの間には厳然たる差があります。しかし,その差を生み出したものが何なのか,と考えると,「決定的な差異」があるようには思えないのです。あるとすれば,わずかな「意識の差」というようなものがあるのかな,と感じます。
 ただ,80分プラスでそのわずかなものが集積していくと,かなり大きな差異となって表われていく。トップレベルのチームだけが参加するトーナメントだからこそ見えてくる部分を明確に見ることのできたゲームではなかったかな,と思うのです。


 では,ちょっと具体的に見ていきますと。


 前回トップリーグのエントリを書いたときに,個人的に感じたブレイブルーパスのストロング・ポイントを書いたかと思います。ですので,今回は東芝府中のことに関しては最低限度で触れることにして,グリーンロケッツ側からゲームを見てみよう,と思います。


 そのときに,まず気になったのが“フラット・ディフェンス”の扱い方でした。


 NECグリーンロケッツは,東芝府中ブレイブルーパスと同じようにフラットな守備陣形を敷いています。相手の攻撃に対してできるだけディフェンス・ラインをフラットに置き,選手が等距離の位置関係を保つ。
 そこまではいいのですが,「数的優位をできるだけ早い段階で構築する」ということを見ていくと,グリーンロケッツはそのイメージにズレがあるような感じがしました。確かにフラットな守備陣形を採用してはいるのだけれど,局面だけを取り出すとかなりストリクト・マンマークに近い状態だったように感じたのです。誰かがボール・ホルダーに対してプレッシャーをかけに入ると,最も近くにいる選手がパス・コース(あるいはラン・コース)を消しにかかったり,あるいはさらなるディフェンスに入る,という連動性があまり感じられず,ディフェンスがかなり独立(孤立)しているような感じがしました。それゆえ,縦への鋭い突破に対してディフェンス・ラインが綻びを露呈し,最初のアプローチが緩いことが大きく後のディフェンスに影響を及ぼし,最終的にトライにまで持ち込まれてしまう,という時間帯が後半にはあったように記憶しています。


 ただ,個人能力が低いのか,と言うと,そういうことでもないように思えます。


 後半,ある程度組織性を犠牲にしてまで勝負に出てきた時間帯での,かなりマン・オリエンテッドなディフェンスにはかなりの激しさと丁寧さを感じましたし,ひとりひとりの守備応対が大きく問題を抱えている,というわけでもない。むしろ,個々の選手の守備意識を巧みに束ねていく「イメージ」がちょっとズレを生じているのかな,という感じを持ちました。
 そして,その「イメージのズレ」が,攻撃面においてもグリーンロケッツにネガティブな影響を与えてしまったかな,という感じがします。


 ブレイブルーパス,というチームは基本的に「縦への意識」が非常に強いチームだろうと感じます。それはBK陣の鋭い縦への突破力だけではなく,ディフェンス・ラインの速いボール・ホルダーに対するアプローチなどでも感じられる部分だと思います。
 それだけに,グリーンロケッツは飛ばしパスなどによる大きくフィールドを使った攻撃やサインプレー(例えば,シザースなどに代表されるスクリーン・プレー)を多用することで,ブレイブルーパスの堅いディフェンス網を揺さぶろうと意図していたことは十分に予想できたし,実際のゲーム・プランとしてフィールドで表現しようとしていたことも理解できます。
 ただ,相手を揺さぶる,ということへの意識が強くなりすぎたのか,「縦への突破」という意識が薄くなってしまった部分があるようにも感じました。ボールをアウトサイドにまでしっかりと展開するのではなく,飛ばしパスによってわずかに生まれた相手ディフェンスのギャップを的確に突く,という部分でグリーンロケッツにはまだできた部分があったように感じますし,「横方向に相手ディフェンスを引き出す」のは「楯を突くためのギャップを作り出す」ため,という部分でBK陣の戦術イメージがちょっと横方向に振れすぎたかな,と感じるところがありました。


 ・・・ファイナル・スコアなどに関してはマッチ・スタッツ(トップリーグ・オフィシャル)をご覧いただきたいのですが,実際の得点差を作り上げたのは,どれだけフィールドに立っている選手たちが同じ戦術的なイメージを持っているのか,という部分の差だったりするのかな,という感じがしました。それだけに,トップレベルのチームが参加するトーナメントというのはシビアだな,とも感じます。


 近鉄花園で開催されたもうひとつの準決勝では,サントリー・サンゴリアスクボタ・スピアーズを下し,決勝進出を決めています。ということで,「府中ダービー再び」であります。レギュラー・シーズンではチームとしての差を見せ付けるかのようなゲームになってしまっていたように感じます。ただ,サンゴリアスマイクロソフトカップに入ってチームとしてのコンディションを上手く上げてきているように見えますから,カップ・ファイナルで同じようなゲームになるとは考えられない。本来の「府中ダービー」らしい,激しいゲームになってくれるのではないか,と期待しています。