新たなステップへ。

各地(各方面)で物議を醸しておりましたユニフォームではありましたが。


 いままであまりに独創的なアイディアを投入してきたメイクスだったので,どういう仕上がりになるのかとドキドキしたりもしました。しかし,最も真っ当な仕上がりになったというのは,クラブのプレッシャーがなせる技なのでしょうか。


 それにしても,“ヤタガラス“のエンブレムは良いものでありますな。


 そういう話ではなく,小野選手が正式に契約を締結したという話であります。


 まず,小野選手が再び「ステップアップ」するためのクラブとしてあらためて浦和を選んでくれた,ということに関してうれしさを感じます。一部では欧州から浦和へ戻る,ということだけを取り上げて必要以上にネガティブな評価をする向きもあるようですが,決してそうは思わない。


 高校時代から彼が見せてきたパフォーマンス,そして持っているに違いないポテンシャルを考えれば,さらなる高みを目指せるだけのものがあると思っています。ヘンな例えで申し訳ないけれど,ぽつんと最高峰があり,その周りは低地というわけじゃあない。ヨーロッパ・アルプスのように高峰が連なり,その中にさらなる高みを持った山が控える。そんなイメージで小野選手を見ています。


 そして,同じようなたとえ話をすれば,最高峰を落とそうというアルピニスト同様に,ステップアップを目指すには周到な準備が必要なはずだ,と同時に思うのです。ここ数季ケガとの戦いに費やされた状況を考えれば,再び万全のコンディションに戻してアタックをかける,という判断だって充分に理解できるはずです。彼自身にとって「さらなる高みを再び射程に収めるための新たなステップ」として浦和が選ばれたのだ,と感じます。


 そして,浦和にとっても「新たなステップ」へと踏み出すために必要なピース,という見方ができるか,と思います。


 2006シーズンは「アジア」という現実的な目標に向かってどのようにチームを作り上げていくか,という部分が問われるように思います。2005シーズンは想定外の事態によってチームのスタイルを見直すという作業と,眼前のゲームをどうものにするか,という作業を同時並行的に処理する必要に迫られながら推移していったように感じます。そのなかから,ハーフコート・カウンターをひとつの攻撃オプションとして維持しつつ,“ポゼッション”や“リトリート”を意識したスタイルへと変化をしてきたように思います。
 天皇杯で見せたように,ダイレクト・パスを積極的に繰り出しながらピッチを可能な限り大きく使いながら相手守備ブロックを縦方向,そして横方向へと引き出す。そんな攻撃イメージを増幅させるために必要な選手とは。そう考えていったときに,小野選手という名前が出てきたのではないでしょうか。


 もちろん,何も保証されているわけではないし,ただあるものは恐らく指揮官の思考の中にある戦術イメージ。そのイメージを現実のものとするために適任,と判断した選手がシーズン開幕時にピッチに立つだけのことだろう,と思います。


 チームが強さを維持するためにも,チーム内部で健全な競争が機能すること。


 フットボール・ジャーナリストである湯浅健二さんがよく書かれることですが,チームにとってこれ以上ないプロフェッショナルが加入することで,若手選手に対する刺激も効果として挙げられようけれど,チーム内競争の活性効果はどれほど高まるか,と思うと,クラブにとっても「新たなステップ」に向けて大きな一歩を踏み出したな,と感じるのです。