ひとのためのエンジニアリング。

ときに,工学的な理想と商品性とがぶつかり合うことがあるように見えます。


 トップシェアを狙おうという会社は商品性を重視する傾向が強いけれど,本当は工学的な理想と商品性が一致することが望ましい。で,そのためのキーワードが「使うひとのために」ということなのかな,と思ったりするわけです。


 とまあ,今回は屋号に忠実な話など。三菱自動車さんからリリースされた“i”のことをちょっとだけ書いてみようかな,と思うのです。


 まず,このクルマを説明する上でキーワードになるのが「ミッドシップ・レイアウト」でしょう。正確にはリアエンジン・レイアウト,と言うべきかも知れません。


 通常の軽規格ではエンジン・コンパートメントを考える必要から,車内空間を大きくするにはZ軸方向(上下方向)に寸法を拡大する,というのがワゴンR以来の基本フォーマットとなったように感じます。ユーティリティを重視する考え方にも適合的だったからでしょう,いわゆるトールボーイ型のボディ・スタイルは急速に軽規格の業界標準になったわけですが,大人4人が快適に移動できる空間を物理的に持っているか,と考えるとちょっと評価が難しい。エンジン・コンパートメントを含めての軽規格ですから,車室内の前後長,具体的にはフットウェルが影響を受けている,と見ることもできるからです。しかしながら,エンジン・コンパートメントを考えずに済む(実際には,補機などをレイアウトする必要がありましょうから,最低限のコンパートメントを確保する必要性はありますが。)のであれば,前後の車軸をギリギリまで外に追いやることができるはずであり,前後方向への車内空間拡大が可能になる。そのためには,エンジンをどの部分にレイアウトすればいいのか・・・。そういうロジックがスタイルから読み取れるように思うのです。


 過去提携先であったダイムラー・クライスラー,なかでも最も前衛的なディビジョンであるスマートのアイディアと相似形を描くものでもありますが,実際に乗るひとのことを考えた設計としてはある種のフォーマットと見ても良いように思えます。「軽だから仕方ない」という考え方ではなく,「軽規格であっても快適に過ごせる空間をつくり出すにはどういうシャシー構造を採用すればいいのか,そしてエンジン・レイアウトを採用すればいいのか」という本質論から実際のエンジニアリングへと移っていったことが分かる。


 「クルマは走ってナンボ」と思っている私としては,乗らずにホメるのもどうか,と思うのですが,開発陣のアイディアをまずはホメておきたいな,と思うのです。