パラダイム・シフト。

まだ,フットボールの世界に「ホームタウン制」が導入される前のこと。


 たとえば古河電工やヤンマー・ディーゼル日産自動車三菱重工というチームに惹かれるきっかけとなったのは特定の選手であったりチームのプレー・スタイルであったりしたのではないでしょうか。


 しかし,「ホームタウン制」が敷かれることによって,以前はそれほど意識していなかったチーム(クラブ)が身近なものとしてクローズアップされてくる。


 J発足当時,私は横浜に住んでいました。


 であれば,住んでいるところに最も近い,横浜を本拠とするクラブに惹きつけられていいはずなのだけれど,そうはならなかった。それまで埼玉県に住んでいた人間にとっては,その埼玉県にプロフェッショナルのフットボール・クラブができることに,より強いインパクトを感じたのです。ハッキリとした理由がいまだに言えないままなのだけれど,ごく自然に,そしていつの間にか,駒場を本拠地としたオリジナル・テンに惹きつけられていたのです。


 プロ野球の世界でも着実に”ホームタウン”の意識が定着しはじめ,地域ごとにチーム(クラブ,という方が相応しくなりつつあるチームも含め)の持っている個性が際立ってきています。もちろん,現段階においても不十分なところが目につくのも確かです。MLBならば,ホームタウンがどこなのか一目で分かるロード・ジャージ,そのユニフォームには親会社の名前が書かれているのですから,やはりプロフェッショナルとは言いながら,実業団的な色彩を強く残しているのだな,と感じるわけです。それでも,地域の大事さを少しずつであるにせよ,意識しはじめている。


 ラグビーフットボールやバレーボール,そしてバスケットボール・リーグがイマイチ迷っているように見えるのは,地域が自分たちにとって大事な存在になりうることを理解しきれていないから,ではないかな,と感じます。


 以前からラグビーに関しては繰り返し書いていることですが,あまりにも秩父宮近鉄花園を意識しすぎているように思うのです。確かに,いままでのラグビーを支えてきてくれたファンのひとたちのことを思えば,これらのベニューを使うことにも理はあります。でも,「強さ」だけに左右されない人気を獲得するためには,「帰るべき場所」がある方が良いと思うのです。例えば,スティーラーズはやはり神戸にしっかりと根を下ろしたチーム,という印象があるのだから,積極的にウィングスタジアムを使って良いはずだと思うのです。また,東芝府中だって,「府中」という名称が入っているくらいなのですから,もっと飛田給を中心に府中近辺のエリアで活動して良いはずです。競技の普及や強化を考えても,積極的にトップレベルのチームが地域に働き掛けてほしいと思いますし,その意味で“ホームタウン”という考え方はクラブの存立基盤を安定させるだけにとどまらず,競技の裾野を大きく広げていくきっかけにもなるのではないか,と思うわけです。


 大学から実業団へとスポーツの中核が移動していった。そして,長きにわたって,スポーツに関わるインフラストラクチュア(当然,資金的バックアップを含めて)を提供し続けてきてくれた。感謝であります。


 しかし,経済動向の変化によって,スポーツ環境が大きく影響を受ける,というデメリットも見えてきました。ならば,全面的に実業団に負担を求めるのではなく,同じ競技をしたいと思うひと,その競技に思い入れを持つひとやクラブに共感してくれるひと,そしてクラブが本拠地を置く地域コミュニティ(自治体を含めて)が広く支える形へと(たとえ緩やかな形であっても良いから)移行していけばいいのではないか。


 ホームタウン制は,潜在的にいろいろなひとがクラブに関わることのできる形態だと思っています。当然,財政規模は一般のひとたちの会費だけで賄える範囲を大きく超えていますから,パートナーの存在だって重要です。実業団としてチームを持っていた会社が,パートナーという形で一歩退いて支える,というのもひとつのスタイルだと思うし,地元の会社さんに小口のスポンサーシップをお願いする,というのも良いと思います。


 そして,当然クラブが大きく地域に対して開かれ,「トップ・チームのためだけの環境」ではなく,ジュニアレベルからの育成・強化やアマチュアが楽しめる環境を提供していくこと。当然,しっかりと会費を取れば運営費用を軽減することだって可能なはずです。また,地方公共団体と連携を密にすれば,また違ったアプローチの可能性だってあるに違いない。恐らく,バレーボールやバスケットボールが抱える問題を解く鍵は,この「地域に対してどうアプローチをしていくか」という点にあるように思うのです。


 そして,この点がクリアになれば,結果的に競技レベルも上がっていくかな,と思ったりするのです。