ロジックと個人的想いと。

やはり,彼にとっての“ベースキャンプ”は浦和以外にあり得ない。


 そう思うところがあります。たとえば,ヨーロッパ・アルプスやヒマラヤのように。


 彼だけが視界に収めているだろう頂へと駒場から歩を進め,フェイエノールトロッテルダムというキャンプへと到着する。その後,着実にステップアップ,頂上へのアタックを狙っていくはずだったのだろうと思います。


 しかし,彼の持つ才能がフェイエノールトロッテルダムにとって大きな意味を持っていくことで,逆にさらなるステップを踏み出しにくくなっていたのだろうか,なかなか次のステップに踏み出すタイミングをはかりかねていたように感じます。その間に相次いで負傷というトラブルに見舞われ,次なるステップが深い霧の中に包まれていったのではないでしょうか。


 そんな状況で欧州域内での移籍を模索したとしても,ボスマン判決以降“フットボール・ビジネス”の奔流の只中にあり続け,シビアさを着実に身に付けているクラブ・サイドにつけ込まれる可能性が高い。自分のイメージするプレーができるできない,などという次元以前の問題に巻き込まれる可能性とて否定できない。ならば,しっかりと条件を整え体勢を立て直してから,再びチャレンジにかかれば良い。


 そう思ったときに,“ベースキャンプ”として浦和が見えたのだとすれば。当然,「古巣」という意識もあるでしょうけれど,クラブとしての魅力も「現時点で」着実に増していることを証明しているように思えます。


 ただ,浦和にとってもメリットがなければ,今回のディールは成立しなかったとも同時に思います。


 天皇杯制覇をきっかけにACL,そしてその先にあるFCWCが現実的なものとして見えてきた。そのときに,「浦和」というブランドを最も効果的にプロモートすることのできる選手が必要になるはずです。フットボールを「ビジネス」として位置付ければ,いままで国内に限定されていた市場がアジア,そして最終的にはグローバルなものへと拡がっていく可能性がある。そのきっかけをつかみ取ったわけです。もちろん,クラブとして「強さ」をACLで見せ付けることが市場拡大に関して最も効果的なプロモーションであることは間違いない。そのときに,そのプロモーション効果を最大化できる選手が必要,という判断が働いたのかも知れない。そんな背景があるのかな,と。


 ・・・ロジックを言えばこんなところでしょうか。


 昨季に限らず,多くの移籍劇を目にし耳にしていく中で,ある種の「免疫」のようなものもできていきます。表面から出てきたことをベースに「裏読み」することだって,ある種の習性になりつつある。


 でもやはり,個人的にはこんなロジックなんてどうでも良いわけでありまして。


 “サッカー少年”という表現がいつまでも相応しいようなフットボーラーが,再び真紅のユニフォームに袖を通す。そして,フットボールの楽しさを中野田で,駒場で,そしていろいろなスタジアムで存分に表現してくれる。その事実そのものがうれしいな,と思うわけです。