伏見工対桐蔭学園戦(高校ラグビー決勝)など。

2004〜05シーズンでは京都成章に代表の座を奪われた強豪校,伏見工


 もう一方のトーナメントの山を駆け上がってきたのは,やはり昨季法政二高に神奈川代表の座を譲ることになった桐蔭学園


 ともに今大会においてAシード校に名を連ねるものの,決して飛び抜けた実力を持って決勝戦の舞台に駒を進めてきたわけではない。準決勝において,両チームともにシビアな展開のゲームを制してきている。ならば,決勝戦においても1トライ,あるいはPGがゲームの帰趨を決しかねないシビアな展開になるのではないか,と思っていた。


 ・・・思っていたわけですよ。しかしですねェ。


 伏見工の試合巧者ぶりが前半は目につきましたですな。この時期,確実に武器にせねばならない「風」をしっかりと計算に入れ,前半に畳み込むことを恐らくチーム全体の共通認識としていたような。
 一方で相手のストロング・ポイントをしっかりと抑え込み,もう一方で自分たちの持っているスタイルはしっかりと機能させていく。


 「バランス」と言ってしまうと単純だけれど,その単純にして非常に難しい要素をしっかりと両立させたな,という感じがしました。今大会中,非常にお世話になったMBSさんのゲーム速報を見ても,前半にラッシュをかけてきた伏見工,という図式が明らかに見えてきます。


 そして,そのラッシュを真正面から桐蔭学園は受け止めるところからゲームに入ってしまったのかな,と感じます。


 準決勝のスタッツを見ても,決して実力的に伏見工に劣る部分はないはずです。それでも,前半は猛烈に圧縮比の高いレーシング・エンジンのように火が入らなかった。必死になって押し掛けをしているのに,なかなかかからない,というように。


 しかし,桐蔭本来の姿は後半になって現れてくる。


 後半は伏見工とまったくの互角の勝負を挑んでいったわけです。恐らく,ハーフタイムに上手に修正をかけてきた結果だと思うのですが,それだけに前半の入り方さえよければ・・・,という部分があります。
 前半に臨むチームの意識の差,が24−0,という点差となって桐蔭にのし掛かっていったのではないでしょうか。そして,勝負所を心得ていた伏見工に軍配が上がった。スコア的には開いたものの,決勝戦らしい内容が随所にあった,と言えるように思うのです。


 さて,タイトルに「など」と付け加えたのにはちょっと訳ありまして。


 今大会はいろいろな見所があったように思います。そこで,せっかくですからこの機会に高校ラグビーを振り返ってみようかなと思うわけです。ちょっと長くなりますれば,畳ませていただきますです。


 それでは,ちょっと大会全体を俯瞰して見返してみようか,と思います。


 まず,桐蔭学園(神奈川代表)がしっかりと決勝にまで駒を進めたことは大きく評価したいポイントだと思うのです。
 今季の高校ラグビーはいわゆる“シード校(Aシード,Bシード含めて)”がトーナメントの中核にあった,という印象が強く残っています。言い方を変えれば,アップセットが早い段階ではあまり起こらなかった,と評価できるのではないでしょうか。1回戦を良い形で勝ち上がってきたチームが最初に越えなければならない壁が2回戦のシード校との対戦なのですが,今大会ではシード校の壁は非常に厚かった。ファイナル・スコアにバラツキはあるものの,報徳学園(兵庫代表)をのぞいてシード校を退けたケースはなかった。期待をかけていた関東勢である深谷高(埼玉代表)もシード勢の一角を占めていた長崎北陽台(長崎代表)の壁を打ち破ることができず,敗退を余儀なくされていただけに,この点ではレベルアップを期待したいところです。
 一方で,いままでの「西高東低」という傾向に対して準優勝につけた桐蔭学園,そしてベスト8に入り,準決勝の枠を桐蔭と争った茗渓学園(茨城代表)が放ったカウンター・ブローはかなりインパクトがあったのではないか,と思います。


 ここ数季,優勝を争ってきたのは明らかに西日本を本拠とするチームです。啓光学園(大阪第1)を筆頭に大阪工大高(大阪第2)や東福岡(福岡代表),そして大分舞鶴(大分代表)などが挙げられるでしょう。そんなトップ・コンテンダーを退け,優勝を争う大舞台に関東勢が名乗りを挙げた。このことを関東エリアに住む私としては大きく評価しておきたいわけです。


 とまあ,大会自体を俯瞰してみれば,基本的には東西格差が再び縮まってきているように見えます。ただ,経験の浅いチームがなかなか勝ち上がっていけない,という部分も見えてきました。


 ちょっと埼玉県のことを念頭に置いて書いていけば。


 県予選が熾烈な地域では,守備的に戦っていくことで切符をつかむ,というのが定石となりつつあるようだけれど,全国,という部分で言えば攻撃と守備のバランスをどう取っていくか,という部分と,対戦相手に対するスカウティング,その結果を戦術に適切に反映させるためのスピードが問われているように思えます。
 どこまで攻撃的に押し切ることができるのか,という側面だけから花園へアプローチするのではなく,相手の長所を効果的に抑え込むためにはどのように自分たちが持っているベースを微調整すれば良いのか,というすこぶるプラクティカルな発想が欲しかったように思えます。そういう面では,やはりシード校に代表される経験豊かなチームに若干のアドバンテージがあるのかな,と。ただ,今大会で良い経験をしたチームが再び花園に戻ってきたときにはかなり活躍してくれるのではないか,という期待もあります。もちろん,そのためには県南勢もベスト8,あるいはベスト4に名を連ねるなど熾烈さを増している県予選を制する必要がある。考えてみれば,“ライバル”,あるいはマークすべきチームが増えるほどスカウティングの重要性が増していくわけで,花園に向けたチームの総合力強化,という部分では良いことかも知れません。


 いずれにせよ,強豪校の中に割って入る,という明確な目標が提示されているわけです。
 そして,大会全体を見ても変化の予感は間違いなくあります。残念ながらフットボールにかなり水を開けられてしまったラグビーフットボールではありますが,面白さは決してフットボールに引けを取るものではない。そんなことを(当たり前のことなんですけど)再確認した大会だったな,と思います。