野洲対多々良学園戦(高校選手権準決勝)。

ラグビーフットボールのゲームでは結構ある「一粒で二度美味しい(2ゲーム見られる)」チケットですけど。


 秩父宮でも感じる「悩ましい問題」,やっぱり国立霞ヶ丘でも例外ではありませんでした。


 「完全防備」していったつもりだったのだけれど,さすがに第2試合ともなると観戦環境が厳しくなってまいります。バックスタンド側だと確かに暖かいものの,引き換えにピッチの状況が判断しづらくなってしまう。特に,メガネ使いですと,普段使いのメガネと度付きサングラスを併用しなければならず,結構面倒だったりするんですよね。と言って,今回陣取ったメインスタンド側だと,第2試合の開始時刻までには暖かさはどこかに行ってしまうので,ゲーム開始前とハーフタイムにはコンコースに出る,というような状態でありました。


 さて,ゲームの話を。


 「個性」という面では,真正面からチームの持っている個性がぶつかり合ったゲーム,という見方ができるかな,と思います。明確に“相手の長所を徹底的に消し去る”というアプローチを使わずに。そういう部分で言えば,第1試合以上に設計図が際立ったゲームだったように感じます。


 ゲーム序盤からリズムをつかんだのは,野洲だったように感じます。


 高いスキルを背景に攻撃を組み立て,多々良学園ゴールへと迫っていく。攻撃を通してリズムを作り出しているような印象を受けました。最終ラインを攻撃の起点として意識する,というよりも中盤,それも高い位置からの積極的なアプローチによってボールの動きを規制しながらショート・カウンター的な攻撃を共通認識として指向する。そんなスタイルを見せていたように思います。実際,野州の中盤でのアプローチは非常に速く,多々良が中盤でボールを落ち着かせる時間的余裕を与えていなかったように見えます。


 対して,前半における多々良学園の守備応対は比較的安定していたように思えます。


 翌日に控えたラグビー大学選手権のためか,ラグビーに使われるラインもうっすらと確認できたのですが,その22mラインを越えて野洲攻撃陣が侵入しようとすると,ディフェンスが組織的に応対する。そして,しっかりとした守備をベースとしながら前線の高い能力を活かした攻撃を組み立てていく。前半14〜15分あたりには決定的な場面を作り出すなど,多々良学園の攻撃にも可能性を感じました。
 ただ,前半から思いのほか全体がコンパクトにまとまった勝負を挑む,という感じはなかった。むしろ,中盤にスペースが早い段階から生まれていたためか,中盤の制圧力が比較的高い野洲に流れが傾いていったように見えます。野洲攻撃陣は中盤高めの位置から前線にかけての動きの中で相手ディフェンスに綻びを作り出しながら,攻撃の形を次第に作り出していく。全体として,前半のリズムを掌握していたのは野州であったように見えます。


 後半立ち上がりの先制点(そして,決勝点)奪取の場面は,スキルを大事にする野州のスタイルが端的に表現された場面だったように思います。ただ,多々良も中盤での速いアプローチを回避するようにダイレクト,あるいはワンタッチ程度のパスを交換することで前線へとボールを回し,好機を作り出そうとする。その狙いは確かに受け取れたものの,フィニッシュに精度を欠いたり最終的な場面での守備応対によって得点を挙げることができずに終わってしまう。恐らく,アウトサイドを活用しきれなかった,という部分も影響しているのではないか,と感じます。良い形で攻撃を組み立てていたのは,アウトサイドが深く野州陣内に侵入した局面からだったと思うのですが,折り返しに上手く反応することができず攻撃が単発に終わってしまっている。また,中央に絞っていってしまうことで相手守備網にかかってしまう,という部分もあったように感じます。
 対する野洲は相手が前掛かりになってくることを充分に予測し,しっかりとカウンター・アタックのプランを合わせ持ちながら先制点奪取後の時間を使っていたように見えます。「縦」へのスピードとスキルのコンビネーションによって,相手ディフェンスを引き裂く。そんな基本イメージだったように感じました。


 ・・・さて,このゲームによって決勝戦のカードがフィックスされました。鹿児島実−野州であります。


 いわゆる“カップ戦仕様”の戦術を駆使する鹿実に対して,恐らく自分たちのスタイルを押し切るつもりだろう野州。恐らく,綿密なスカウティングによってどういう守備を仕掛ければ相手のストロング・ポイントを消し去ることができるか,ある程度の手がかりはつかんでいるだろうと思います。その「野洲対策」を打ち破ることができるか。決勝戦においても,「設計図」の違いは際立つのではないかな,と思うのです。
 各チームが,イロイロな方向性を模索し始めた今季の選手権。そんな選手権の最後として,ちょっと違う設計図を持ったチームがぶつかるというのは面白いな,と思います。