鹿児島実対遠野戦(高校選手権準決勝)。

実際に,行ってきました千駄ヶ谷


 「君は美しい〜ぃ♪」の無限ループ(!?)にちょっと所在なさを感じたり,それならば,大会のスポンサー様に敬意を表してなかなかシャレの効いているゼロックスのCMでも見せてくれぃ!とか思いながらゲーム開始を待っておりましたですよ。


 バックスタンド上方に掲げられていた大会旗を見ると,ホームゴール裏からアウェイサイドへと風が吹き抜けているかのように見えたのですが,織田ポールの“フェアプレイ・フラッグ”を見ると,それほどピッチレベルでは風の影響はないような。気温は確かに低いものの,概ねグッド・コンディションという状況かな,と思っておりました。


 で,第1試合のカードは鹿児島実−遠野戦。なかなか緊張感あるゲームになるのではないかな,と思っておりましたが,「前半に関しては」そんな印象でありました。ただ,ゲーム全体を俯瞰的に見れば,ゲームが始まってからのアジャスティング能力は鹿実サイドの方が巧みだったかな,という感じがします。前半終了間際の先制点奪取は,遠野攻略の糸口をつかんだ,というある種の合図だったかな,という感じもするのです。


 まず最初に。


 “ファイナル・スコア”を取り出せば,確かに3−0と鹿児島実の快勝という見方が成り立ちます。でも,今季の準決勝はすべてのチームがある種の個性を持って勝ち上がってきたな,という印象があります。それだけに,その個性がゲームの中でどう表現されたか,という見方をちょっとしてみたいな,と思います。


 では,遠野サイドから見ていくことにしますと。


 端的に彼らのスタイルを表現してしまえば,“コレクティブ”という感じがしたし,中盤でゲームのリズムを組み立てる,という感じがしました。実際,良い形でボールを奪取してからの攻撃には鋭さを感じました。ただ,鹿児島実はこのストロング・ポイントに対する対策を綿密なスカウティングを通じてしっかりと練っていたのではないか,と同時に感じます。中盤での攻防に持ち込まれることを極力回避するかのように最終ラインで遠野の攻撃を受け止めると,ミドル〜ロングレンジ・パスを繰り出し,前線が落としたところに中盤の攻撃的な選手が詰めていく,というある意味カップ戦におけるスタンダードとも言えるような攻撃を仕掛けていたな,と思います。恐らく,フルコート・カウンターをベースとしているのでしょうが,同時に早い段階からボール・ホルダーに対して積極的なアプローチをかけ,良い形でボールをコントロールされないように先手を打ち,ハーフコート・カウンターも効果的に繰り出していました。


 しかし,鹿児島実のストロング・ポイントは「徹底された戦術」だけではなく,「フィジカル・ストレングス」にもあると思います。


 「縦」への意識がかなり強い攻撃を組み立てますが,攻撃陣のスピードが80分プラスを通じて決して衰えないために,遠野の組織的な守備応対に“ボディブロー”のように効いてきていたのかな,と思います。前半にはしっかりと守備ブロックが“ゾーン”をしっかりと意識した守備応対をしていたように見えたのですが,後半に入るとマンマークに切り換えるタイミングがズレてきていたのか,明らかにマンマークで対応しなければならないボックス付近での守備が不安定なものになっていたように思います。失点場面でも感じたことですが,ボックスにDFの枚数はしっかりとそろっていたものの,誰がどの相手をケアするのか,という部分で不明瞭さを感じさせていました。チームの中核となっていたであろう主将がこのゲームでは出場停止となっていたのですが,恐らくその影響はこういう部分に出てしまったのではないか,と感じます。


 ・・・確かに,前半終了間際の失点は遠野サイドにとっては不幸なものだったかな,という感じがします。はっきりしたことは言えませんが,オフサイド気味なリフレクションだったように見えなくもない。ただ,全体を冷静にながめてみれば,その印象は大きく違ったものとなる。本来マークを厳しくしなければならないエリアにおいて,そのマークがルーズになってしまう,という部分を示してしまったという点では,後半に向けて鹿実に絶好の攻略ポイントを提供してしまったように感じます。


 「組織」を存分に生かす,というポイントを設計図の中核に置き,攻撃面では一定程度機能した面もあったように思います。しかし,守備面においてはあるポイントを越えて相手が侵入してきた場合,その組織を積極的に崩してマン・オリエンティッドな守備へと移行していかなければならないと思うのだけれど,その移行が必ずしもスムーズではなかったように思います。


 「組織」というものを意識していたのは遠野だったように思いますが,「組織と個のバランス」を上手に取っていたのが鹿児島実であった,という見方もできるように思うのです。