永遠の書きかけ。

ちょっと今回はフットボールとは関係ない,純然たる雑記などを。


 以前,アストン・マーティンを扱ったエントリを書いたことがあります。


 アバンギャルドな側面と,伝統を重んじる側面とが不思議に同居している。シャシー・エンジニアリングを思えば,ロータスのような技術的アプローチを投入する一方で,かつての文法をしっかりと踏襲する要素も残している。そんな部分に魅力を感じ,例えばプローサム・コレクションを展開しはじめたバーバリーのように一気にモダナイズされたな,と感じました。


 よく考えてみれば,最近のロンドンもそんな印象を与えるものではないか,とちょっと感じたりします。


 LHRからヒースロー・エクスプレスでロンドンに向かうとすれば玄関口となる,ロンドン・パディントン駅。まだ私が住んでいた頃は大規模な改装の真っ最中でしたが,現在は歴史ある建物を現代に甦らせる形でヒルトンがオペレートするホテルが営業しています。目的地の最寄駅でもあり,ウィークデイは毎日使っていたリヴァプール・ストリート駅では,コンラン卿が深くコミットしたグレート・イースタンホテルがそれまでの建物を大幅にリノベートする形で営業しています。伝統的な建物には敬意を表しつつ,中身は徹底的に現代的なものへとモディファイを加える。ブリティッシュな,ひとつの建築スタイルかな,と感じます。


 その一方で,徹底的に現代的な建築を見ることができる場所もあります。


 たとえば,ロンドン・ウォータールー駅だったり,あるいは,ロイズのヘッドクウォーター。そして,DLR(ドックランド・ライトレール)沿線の再開発地区です。世界的な金融街であるシティは,どちらかと言えば伝統的な建物と現代建築とが不思議に混在する地区ですが,そこからドックランド・エリアに向かっていくと,ロンドンがやはりニューヨークや東京と同様にビジネス街であることを否応なく認識します。カナリー・ワーフ駅で降りると,ロンドンの伝統的な建築とは明らかに対照的な高さを持った建築物が目立ちます。また,地下鉄駅入口の建築スタイルも,明らかにモダン・ブリティッシュだな,と感じるものがあります。


 こう考えていくと,街というのはある種のバランスなのかな,と感じます。


 当然,都市はビルド〜スクラップ〜リビルド,という循環を繰り返していくものですから,一定の時期で大規模な再開発が必要になる時期が訪れます。ただ,そのエリアが持っている歴史からまったく自由な開発計画が成立するか,と考えれば,それはちょっと難しいのではないかな,と思います。街作り,というものが決して終わることのない長編小説のようなものであるのならば,前章からまったく関係ない物語を書いてしまっては一貫性が損なわれるのではないでしょうか。その一方で,まだショートショート程度の歴史しかないエリアならば,大きな発展性を持った計画を立ち上げることもできる,かも知れません。そう考えてみると,街作りとは永遠に書きかけのままの,しかも執筆者が多数存在する文章みたいなものかな,とも感じるわけです。


 長く親しまれてきた“同潤会アパートメント”のシルエット,そして表参道の風景を作り上げている要素である並木の高さに一定の敬意を表しつつ計画が練られたであろう,「表参道ヒルズ」の計画は,多く都市再開発を手掛けている(中には,必ずしも好意的に受け取れないものもあったりしますが)会社のプランとしては,評価して良いものではないかな,と街歩きがちょっとした趣味の私としては感じるのです。