対FC東京戦(天皇杯5回戦)。

極力“ニュートラル”に見れば,フィニッシュの精度がゲームの帰趨を決した,という見方も成り立つか,とは思う。


 しかしながら。


 カップ戦においては,「主導権」を握ることが非常に重要な要素であり,その主導権を大きく引き寄せるためには相手に先んじて得点を奪うことが大きな意味を持つ。
 いかにボールを支配しながら積極的に攻撃を仕掛けようとも,しっかりとしたフィニッシュを決められなければ微妙にバランスを崩していく。そういう部分を的確に突く形での先制点ではなかったか,と感じる。決してボールの走り方は悪くなかったと思うし,パス&ムーブという意識がしっかりとピッチ上の選手たちに共有されていたと感じる。先制点の場面にしても,左アウトサイドが深い位置まで突破を図り,ルックアップから正確なクロスをゴール・マウス前に送る。そこにマーカーのチェックを巧妙に外す動きをしながら侵入する形でクロスに反応し,ボールをゴールへ流し込む。


 ハーフタイムを1−0で折り返し,迎えた後半。


 立ち上がりから相手がリズムを作り出し,押し込まれる時間帯が訪れる。それでも決定的な破綻をきたすことなく丁寧に守備応対を繰り返すことでリズムを取り戻し,自陣,比較的低い位置でのリトリートからのシンプルなパス回しからチャンスを作り出す。単純な“キック・アンド・ラッシュ”ではなく,浦和のストロング・ポイントのひとつである,縦への突破力を持った選手を充分に活かした攻撃を見ることができたように思う。
 守備面では,最終ラインでのライン・コントロールが安定感を持ち,中盤とのコンビネーションにズレを生じていないことから,高い位置からのプレッシング(ボール奪取)という昨季からの浦和らしい攻撃スタイルと,比較的低い位置からのリトリート的なフットボールとをゲームの中で上手く使い分けているような印象を持った。


 ・・・貴重な追加点であり,決勝点となった山田選手のドリブル突破を見ていて,ライアン・ギグス選手のドリブルをちょっと思い出していました。


 本来ならば,右アウトサイドを駆け抜けるはずが,今回に関しては左アウトサイドを駆け抜け,シュートレンジに入るや躊躇なくシュートを放つ。ボールは緩やかにドライブのかかった状態でサイドネットへと突き刺さる。そんなプレーが,ギグス選手を思い出させたのかも知れません。


 1998〜99シーズンのFAカップセミファイナル・リプレイ)。相手は宿敵・ガンナーズ。トップ・スピードに入っているにもかかわらず,切れ味の鋭い切り返しによって相手のチェックを巧みに振り解き,ホールドしていたボールをシーマンが守っているゴールへと沈める。
 思えば,FAカップを掲げる以外にもFAカーリングプレミアシップを制し,ビッグイヤーも手に入れた“Treble”の年です。欧州カップ戦決勝戦でも「神がかった」活躍をしていたマンチェスター・ユナイテッドですが,その幸運を呼び込むきっかけとなったのが,ギグス選手のプレーではなかったか,と個人的には思うのですが,今回の山田選手のプレーが浦和に強運を呼び込むきっかけになれば良い。そんなことを思っています。