ハイブリーからアシュバートン・グローブへ。

ホント,ご近所さんへの「お引っ越し」という感じでしょうか。


 スタジアムへのアクセス・マップ(アーセナル・オフィシャル,PDF版)を見ますと,アーセナル,あるいはフィンズブリー・パークが間違いなくお奨めできる最寄り駅でしたが,“エミレーツ・スタジアム”が竣工するとハイブリー&イズリントンも結構便利な最寄り駅になりそうです。


 正直なところを言えば,ハイブリーはルートマスター同様にロンドンを代表するものだと思っていただけに,「残しておいてほしい競技場」だと感じていました。


 ロンドンに住んでいた当時,幸運にも入手できたチケットはハイブリーでのゲームでした。最初は最寄り駅であるアーセナル駅から歩こうか,と思いましたが,すごく混雑するからひとつ先のフィンズブリー・パーク駅から歩いて競技場に向かう,というのがある種の定番であることを知ったのはそのときだし,競技場に乗り込む前の“燃料補給”(エールを徹底的に飲みまくること)が愛すべきイングリッシュの標準仕様であることを身をもって理解したのもそのときでした。とても狭いターンスティルを通過して中に入ると,独特の雰囲気に引き込まれました。


 決して見やすい競技場ではないです。


 後方の席を確保してしまうと,大きく張り出してきている2階席が影響しているのと,絶対的な高さが不足しているために,ピッチが見づらいのです。だけど,ゲームになるとそんなことは一切気にならなくなったのが不思議でした。チャンスと見るや,木製の観客席が一斉に跳ね上がる音がし,観客の視線がペナルティ・エリア付近に集中していくことが伝わってくる。ちょっとして,その期待感がある種の失望に変わるときも,当然のようにある。そんなときには,スタジアムが溜息をつくかのような観客の何とも言えない反応とともに,再び着席する様子が手に取るように分かる。“ホーム”とはこういうものなのか,と感じた覚えがあります。


 そんなスタジアムですが,やはりクラブ規模に合っていないことが問題になってしまった。


 アーセンが就任し,往年の強さを取り戻すどころか欧州の覇権を狙えるまでになったことで,キャパシティ不足を露呈することになっていったように思います。


 マンチェスター・ユナイテッドがホームとする“オールド・トラフォード”は大きな拡張性を持ったスタジアムだけれど,ハイブリーは住宅街に囲まれた立地のために,容易に拡張できずにきてしまっている。にもかかわらず,シーズン・チケットホルダーのウェイティング・リストは長くなる一方だし,観客収入面から言っても現在のキャパシティでは間違いなく本当の意味でのビッグクラブへの脱皮は図れない。ハイブリーという「アットホーム」な雰囲気は捨てがたいものだったに違いないけれど,さらなる飛躍を目指すならば,“ハイブリーから巣立つ”という決断はある意味仕方のないことだったのかも知れません。


 そして,そのスタジアムは2006〜07シーズンからメイン・パートナーとなるエミレーツ航空の名前を冠した“エミレーツ・スタジアム”と命名される。そして,今までのハイブリーはアパートメントとして新たな役割を与えられるそうです。ピッチだったところは住民となったひとたちのためのスペースとして利用されるのだとか。エミレーツ・スタジアム,とは言うけれど,やっぱりイングランドのスタジアムは住所で呼ぶのが気分かな,と私は感じます。“アシュバートン・グローブ”,あるいは,ハイブリーから近いのだからそのままハイブリーという名前を継ぐのも良いのかな,などと個人的には思いますね。ガンナーズ・サポータが新スタジアムをどう呼ぶのか,ちょっと興味があったりします。