黙祷よりも拍手を。

そんな選択をしたひとたちの心意気が,私には心に残るような気がしました。


 ジョージ・ベストさんの早すぎる逝去に対して,イングランドスコットランド各地の競技場ではゲーム開始前に黙祷が捧げられたわけですが,会場によっては「拍手」によってベストさんを送ろうという趣旨でしょう,競技場が拍手で包まれたそうです。


 もちろん悲しい話なのだけれど,同時に良い話だなと思います。


 当然のことですが,私はリアルタイムで彼の活躍を知るわけではありません。


 ただ,彼がマンチェスター・ユナイテッドとともに獲得したシルヴァー・ウェアは,オールド・トラフォードに併設されているミュージアムで目にしています。1960年代,マンチェスター・ユナイテッドの黄金時代をボビー・チャールトン,デニス・ローとともに支えた,欧州最優秀選手(バロンドール)の栄誉にも浴した名選手。恐らく,クラブ・レベルではほぼ考えられるタイトルを獲得しているはずです。欧州チャンピオンズ・カップを制し,リーグ優勝を2回ユナイテッドで経験しています。ただ,到達した頂があまりにも高かったのか,その後のキャリアにはユナイテッド時代ほどの輝きを感じられない部分もあります。


 また,代表チーム,という面では活躍の場が少なかったのも確かでしょう。ベルファストで生まれた彼は北アイルランド代表としてプレーするわけですが,残念ながら大きな国際舞台に北アイルランド代表が立つことはなかったように聞き及んでいます。


 それ以上に残念だな,と思うのはやはりアルコールの悪影響でしょうか。


 “インディアン・サマー”が訪れることなくプロフェッショナル・フットボーラーとしてのキャリアを終えてしまうことになる遠因も,アルコールにあるように思うし,結果的には命を縮めることになってしまったのではないか。考えてみれば,フランツ・ベッケンバウアー氏が同じ1940年に生まれています。そう思うと,もっと活躍の場を見たかった,というのも偽らざるところだと思うのです。


 ただ,黙祷よりも拍手によって盛大に送られることの方が似合っているフットボーラーがいたって良いじゃあないか,とも思うところがあります。そんな規格外のプレイヤーだった人間が去っていった。そのことを寂しく思いつつ,こんな強烈な個性を持ったフットボーラーもいた時代とはどういう時代だったのだろうか,と想像をめぐらせています。