定期点検。

とは言っても,24ヶ月点検(いわゆる車検)とか,12ヶ月点検のように「屋号そのもの」の話をしようというのではありません。


 いつものように木村浩嗣さんのコラム(スポーツナビ)を読んでいて,木村さんが「スロバキア守備陣の欠陥」として列挙されたポイントは,フットボールの見方を提供してくれているように思ったのです。違った表現を使えば,チームが戦術的にフィットしているのかどうか,あるいはピッチに立っている各選手の「戦術眼」がどれだけ一致している(戦術的なピクチャーが共有されている)のか,それともズレを生じているのか,シロートでもチェックできるポイントを的確に示してくれたような感じがするのです。


 そこで,今回は木村さんのコラムを参考書としつつ,ちょっとシーズン・レビュー的に書いていこうかと思います。まあ,屋号に引っ掛けてタイトルを考えてみたというわけです。ちょっと長くなるか,と思いますがお付き合い下さいませ。


 木村さんがスポナビに寄稿されたコラムで指摘されたスロバキアの守備面でのポイントは4点(とは言え,実質的には3点)。これを土台にして,今季の浦和の守備戦術を考えていきますと。


(1)攻めに出た選手が戻らずスペースを放置する


 木村さんは攻撃参加をした選手の戻りが遅いことが,スロバキア守備陣の大きな問題点だ,としています。


 ターンオーヴァを受けた場合,できるだけ高い位置でボール・ホルダーに対してプレッシングを掛け,攻撃をディレイさせる必要があります。相手の攻撃をディレイしている間に,攻撃参加している選手がボール・ホルダーに対して二次的にアプローチをかける,あるいはイニシャル・ポジションにまで戻って相手の攻撃に応対する。その時間を作り出すためにも,できるだけ早い段階でボール・ホルダーに対してファースト・ディフェンスを仕掛けなければならない。ボール・ホルダーに対するプレッシャーが充分なものでなければ,リトリートであろうと高い位置からのプレッシング・フットボールであろうとボール奪取のポイントにズレを生じることになる。


 今季の浦和では,このポイントは「誰が攻撃参加した選手のカバーに入るのかが不明確になっているかどうか」というのが,チームのコンディションをチェックするポイントになるような気がします。


(2)サイドに流れた選手を追いかけない


 3バックを採用するとすれば,間違いなく左右アウトサイドと最終ラインの間のスペースが問題になり,そのスペースをどのように消していくか,ということが戦術的課題になるように感じます。その意味で,「必然的に生まれてしまうスペースをどう消すか」という戦術的イメージが守備ブロック(最終ラインとレジスタ)とアウトサイドで共有されている必要がある。この点,ハーフコート・カウンター(ショート・カウンター)だけを意識したフットボールから,リトリートからのビルドアップを相対的に強く意識したフットボールを指向していたからか,カバーリングに関してはスムーズな移行を見せていたような感じがします。ストッパーがイニシャル・ポジションから外に開くか,あるいはレジスタがポジションを斜め後方にずらしていくようなイメージでアウトサイドの後方に生まれるスペースに入り込み,そのエリアに侵入しようとするボール・ホルダーにプレッシングを掛けていく。そして,相手の攻撃をディレイしている間にアウトサイドがケースに応じて守備応対に加わり,ボール奪取を図る。


 このポイントに限定して考えてみれば,ある程度の安定感を感じられたシーズンだったのではないか,と感じます。


(3)ラインの間に入った選手を追いかけない


 最終ラインとレジスタ,あるいはアウトサイドとのディスコミュニケーション(戦術的イメージのズレ)が問題の背景にある,と木村さんは考えているようです。その結果として,アタッキングサードに侵入しようとするボール・ホルダーに対して誰が寄せていくのか,そしてどのポイントでボール奪取を積極的に仕掛けていくのか,が不明確になっていることを指摘されているように感じます。


 個人的に,今季浦和が抱えていた問題点はこの“ディスコミュニケーション(戦術的イメージの微妙なズレ)”ではないか,とシロート目ながら感じています。それゆえ,木村さんは2番目に指摘されたポイントですが,敢えて最後に持ち出してみました。


 今季,浦和は“リトリート”を強く意識した戦術へとシフトしていったような印象があります。しかし,リトリートであろうと,プレッシング・フットボールであろうとボール奪取から攻撃にスムーズに移行させるための「適切な距離感」というものは変わらないのではないか,と思うのですが,その距離感に対する選手のイメージにズレが生じているのではないか,という印象を持っています。そのために,ボール・ホルダーをフリーなままでアタッキングサード,深いときにはボックス近くへ侵入させてしまうケースがあった。


 今季序盤,戦い方に不安定さを見せてしまった原因は,恐らく最終ラインと中盤とのコンビネーションにどこか微妙なズレがあり,そのズレを解消するのに時間がかかってしまったことにあるのではないか,と感じます。当然,いろいろな要因によってメンバーを固定できなかったことも大きな要素になっているはずですが,それ以上に「チームとしてどのような守備戦術を押し出すか」という部分で不明確さがあったようにも感じます。


 最終戦天皇杯において安定した守備戦術がみられるかどうか,がタイトルの帰趨を左右することはもちろんのこと,来季への強固な基盤を構築するためにも最も重要な要素ではないか。そう,個人的には感じています。