True Britishness.

また,フットボールとは関係ないクルマの話など。


 最大限好意的な解釈をすれば,PAG(フォード・グループ)に参加するまでは「手工芸品」のような製造を続け,命脈が絶えるのも時間の問題か,と思われていたメイクスです。


 しかし,イアン・カラムのドローイングによるDB7によって,長年の超低空飛行のような状況を脱し,往年のブリティッシュ・スポーツを代表する“プレミアム・ブランド”としての威光を急速に取り戻していきます。そして,そのブランドが「過去の栄光」などではなく,現在においてもスーパースポーツを送り出すポテンシャルを充分に持っている,ということを明確にしたクルマが,この“アストン・マーティンヴァンキッシュ”だろうと思います。



 恐らく,東京モーターショーに足を運ばれた方ならば(あるいは,この手のFRスーパースポーツに目のないひとにとっては)この写真の奥に見えるワイン・レッドに彩られた“V8ヴァンテージ”の方に興味がありましょうし,「工業製品」としてみれば間違いなく後発のV8ヴァンテージの方が高い完成度を持っていると思います。


 そうは理解しているのですけれど。


 まだデザインに往年の荒々しい部分を残しているヴァンキッシュに,私は魅力を感じます。また,この荒々しさと優美さを奇妙に同居させているスタイリングの下にある“シャシー・エンジニアリング”も興味をひかれる部分です。ロータスエリーゼでも採用された,接着によるアルミ・モノコック構造をこのクルマでも採用しています。そして,Aピラー部分(ウィンドシールドを支える柱の部分)にはカーボン・ファイバーが使われるなど,ただウッドパネルとレザー・インテリアで構成される「英国趣味」を表現したモデルではなく,建築やファッションなどでも最近明確になっている“モダン・ブリティッシュ”を体現するリアル・スポーツでもある,というのが何とも魅力的なのです(とは言いながら,微妙に安っぽさを感じさせる部分もあるのが,悪い意味でのブリティッシュネスかも知れませんが)。


 「伝統」という枠組みを全面的に否定するものではないし,上手にその伝統を表現しながらもその伝統というものを大きく超えた革新的なものを同時に求める。英国らしさって案外,そんなところにあるのかな,と,ロータスアストン・マーティンを見て,あるいはロンドンにあるポスト・モダン建築を見て思ったりします。


 恐らく現在のアストン・マーティンのイメージは,東京などの都市部をゆったりとクルーズする“セレブリティのためのクルーザー”のように感じられるかも知れません。確かにショールームで掲げられているプライスタグだけを見れば,セレブリティのための嗜好品,という見方も成り立つと思います。ただ,同時に純粋に走りを意識した基本設計を採用した“ピュア・スポーツ”だと私は思うし,都市部の渋滞という重い足枷を解き放って,ワインディング(と言いますか,オープン・ロードと言いますか)で存分にそのポテンシャルを引き出してやるべきクルマだと思うのです。CG誌がヴァンキッシュを紹介した記事を読んだことがありますが(2001年9月号),そこに掲載された写真はスコットランドのオープン・ロードを走るヴァンキッシュでした。そんな場所にあってこそ,本来の光を放つように思うのです。


 私は「走ってナンボ」というクルマが基本的には好きです。


 そして,どういうわけか前方にエンジンを搭載しているクルマの方が気になります。昔,たぶん尾瀬かどこかから帰る道すがらだろうけれど,後方に“2000GT”を見てしまった(麓に下りるまで結構長いこと追走してくれていたような),その影響なのかも知れません。思えば,その時の2000GTもこの写真のように白い(当時の色目ですからアイボリーに近いけれど)ボディだったように記憶しています。


 何年後になるかは分からないけれど,このようにポテンシャルを持ったクルマを実際に手に入れてみたいな,と思います。たとえ中古だろうと,昔同様のカスタマー・サーヴィスを受けられるならばアストン・マーティンは決して高い買い物にはならず,「一生モノ」になるかも知れない。以前ここでも書いたコーヴェット同様,良いな,と思うクルマです。