エリサルド・ジャパンの戦略。

“Adaptabilite”(適応力)というキーワードを大きく打ち出されているけれど。


 “インサイド”(サンデースポーツの特集コーナ)を見た印象で言えば,局面ごとに“スペース”を徹底的に意識しながら動きなさい,ということかな,と。何か,フットボールの基本戦術を見るような感覚になりますが,カテゴリにも示しましたようにラグビーフットボール,特に日本代表の話を今回はしていこうか,と思います。


 ラグビーフットボールでは,サイン・プレーやトリック・プレーなどに代表される「決めごと」を基盤とする攻撃が主流であったように思います。また,トップリーグを戦うクラブはどちらかと言えば,NZなどフィジカルに優れるラグビー・ネイションが採用する戦術を持ち込んできていますが,代表ではその戦術が有効に機能している,という印象が薄いように感じます。
 その反面で,ラグビー・ワールドカップ(RWC)などの国際試合で得点を挙げた局面を思い出すと,相手ディフェンス網の隙間を突くような突破から良い攻撃が生まれているように思うのです。


 そして,エリサルド・ヘッドコーチはゲームを通してフィールドに立つ各選手が自律的に必要とされるプレーを考え,その集積として相手のスペースを突いていく,というアイディアを持っており,そのアイディアを選手たちに浸透させようとしている。特に,攻撃面では相手ディフェンスラインに生まれる“スペース”(あるいはギャップ程度の少ないスペースであっても)を的確に突くために連携することを常に選手に対して求めているな,と感じました。


 確かに,ケースによっては個人能力に頼った局面打開が必要な場面も出てきますが,エリサルド・ヘッドコーチがインタビューで答えていたように,フィジカルに優れるラグビー・ネイションではマン・オリエンテッドなディフェンス面で決定的なミスを犯す可能性は非常に低く,密集からターンオーヴァを受ける可能性があります。しかも,密集ができている,ということはディフェンスがしっかりと整っていないということも同時に意味するから,鋭いカウンター・アタックから逆襲を受けてしまうことだって充分に考えられます。
 となれば,個人能力に過度に依存するよりも,ベースを組織に置きながら個人能力を活かしていく,というアプローチがジャパンには有効だろう,というロジック・フローかな,と思うのです。


 不用意にトランジションからの失点を重ねないためにも,ボールをしっかりとキープしておく必要がある。そのためには,組織で相手ディフェンス・ラインに綻びを作り出し,その綻びをちょっとずつ拡げていく,ということを徹底していくべきだろうと個人的にも感じます。
 そして,スクラムに関しても明確に「押す」ということを要求していることからも,かなりエリサルドさんはアグレッシブに攻撃を仕掛けることをコンセプトにしているな,と感じます。ただ,どのようにディフェンスを展開するのか,という部分が見えないことは気になる要素だし,これからのゲームの中でいろいろと見ていきたい部分でもあります。


 選手たちはちょっと戸惑っているようにも見えましたが,練習を見る限り状況判断を速めながら選手間の距離を適正なものに保つ,というコンセプトが明確に見えるような感じがしました。
 残念ながら,先頃行なわれた対スペイン代表戦では成果と課題が相半ばするような状況だったようですが,基本的なアイディアは決して間違った方向だとは思いません。


 ラグビーフットボールフットボールの要素を巧みに落とし込むかのようなエリサルド・ジャパンの戦術的アプローチはなかなかに,興味深いなと思います。