カップ戦初戦の難しさ。

今回は,ちょっと短めに。


 フットボールには「心理戦」の側面も間違いなくあります。


 ゲームを優位に進めるためには,相手に対して心理的に優位に立っている必要があることは言うまでもないことです。
 しかしながら,心理的に優位に立つという状況が「余裕」や「過信」に振れるようだと,むしろ“モティベーション・クラック”という問題を抱えることになるし,ゲームにかける相手の高いモチベーションを真正面から受けて立つことになりかねず,本来チームが持っているはずのリズムを発揮することなくゲームに入っていくことにもなりかねないようにも感じます。


 昨季の天皇杯を俯瞰すれば,かなりアップセットが目立ったトーナメントだったように記憶していますが,ディビジョン1勢が昨季のようなアップセットに沈むとすれば,それは心理面のちょっとした隙かも知れない,と思うのです。そして,“J's GOAL”にアップされているJ1クラブ各指揮官の記者会見コメントを読んでも,“アップセット”を強く警戒していたことが見て取れます。
 異口同音に各指揮官が言及した「カップ戦初戦に臨む難しさ」。それをちょっと具体的に表現するならば,このようなものかな,と推理します。
 つまり,本来の主戦場であるリーグ戦とは違うリズムに支配され,本来自分たちが持っているはずの攻撃リズムに微妙なズレを生じる。対して,相手クラブはディビジョン1勢に対して勝負する姿勢を前面に押し出して向かってくる。ゲームにかけるモティベーションのズレのようなものが,攻撃リズムのズレを拡大する。その悪循環の先にあるものとして生じるのが“アップセット”かな,と思うのです。


 今季はディビジョン2勢,あるいはJFL勢が過密スケジュールの隙間を縫って天皇杯4回戦に臨んでいるという状況もあり,例年よりもディビジョン1勢との真剣勝負ができる天皇杯へのモティベーションをどう作り上げていくか,難しい部分があったのではないかという想像が成り立つし,そのことは間違いなく,ディビジョン1勢にとっては有利に働いたとは思います。しかし同時に,下部リーグクラブとの対戦においてともすれば陥ってしまう心理的な悪循環をディビジョン1勢が上手に乗り越えたのではないか,とも感じます。
 結果,天皇杯4回戦では,“アップセット”が起こらないひさびさの展開となりましたが,フットボールは「心理戦」でもある,ということをあらためて認識する良い機会だったのではないか,と感じます。