対柏戦(05−27)。

まず最初に,繰り返しにはなってしまいますが。


 背筋を凍り付かせるような事態が発生してしまったけれど,その原因はレフェリー,選手双方にあるように思えます。確かにレフェリングが不安定だったかも知れないけれど,その不安定なレフェリングに対して過剰反応を繰り返せば,事態は好転するどころか悪循環に陥るだけだと思うのです。


 悪循環の行き着く先として,あのような事態が起きた。


 戦う相手は,同じピッチで対峙するチームだけであって,ゲームをコントロールすべきレフェリーではないはずです。
 チームが何らかの不安定要素を抱え,その結果として本来持っているリズムが崩れてコンビネーション・プレーが上手く噛み合わない。そんなイライラが,レフェリングに向かってはいないか。審判団への疑心が,審判団のチームへの不信感増幅につながり,結果としてチームにネガティブな影響を与えるのは明らかです。小齊さんもMDPに寄稿されたコラムで指摘しているように,一時期の浦和もそんな悪循環にあったように思うし,今節の柏はその悪循環を90分プラスというあまりに短い時間でさらにひどくしたような,そんな感じがあります。


 前置きがいつも以上に長くなりましたが,ゲームに関しては相変わらず1日遅れであります。


 当然,相手の退場によって数的優位の状況に立っていたわけですから,割り引いて考えなければならない部分はありますが,千葉戦(ナビスコカップ準決勝第2戦)前半の良いイメージを,メンバーが変わってもしっかり引き継いでいったという印象があります。では書いていきますと。


 ファイナル・スコアももちろん大きな収穫だと思うけれど,最も大きな収穫としては,「役割」が明確化されたことではないか,と考える。


 チームとしてのリズムの基盤となるものが,各選手の担う役割ではないか,と。
 最近のゲームでは「総力戦」という色彩があまりにも強く,心理面だけが必要以上にクローズアップされ,役割という部分では若干不明確な部分を感じていた。アウトサイドをどのように攻撃に絡めていくのか。トップをどう動かしながら相手守備ブロックを崩していくのか。そして,当然のことだけれど,浦和がリズムを生み出す大きな鍵である,ファースト・ディフェンスをどのように連動して仕掛けていくのか。そういうコンビネーションに微妙なズレを生じ,全体として90分間プラスの時間帯を通じて安定したリズムを維持できないような印象を持っていた。その悪循環を今節は断ち切ることに成功したのではないか,と感じる。


 そのひとつの要因は,ともすればベスト・メンバーを組めないという状況がもたらしたものではないか。特に,守備面においても重要なポジションであり攻撃面では守備ブロックを崩すためのひとつの鍵になる,アウトサイドが警告累積によって出場停止処分を受けているだけに,チームはどのようなシステム,基本戦術で柏戦に臨むのか,今節のスターターでの確認を綿密に行ったはずだ,と考える。その戦術確認作業の中で,個々の選手がチームで果たすべき役割があらためて明確になったのではないか,と。
 長いリーグ戦の中で,戦術的なズレが発生することは充分にあり得る。そのズレを当然のこととして捉え,どのように修正,戦術の再確認を図るか.そんな戦術確認,個々の選手が持っている戦術的イメージの微調整が,チームがリズムを取り戻したことの背景にあるのではないか,と個人的には感じている。


 確かに,立ち上がりの時間帯では主導権を激しく奪い合っていたように思うが,ボールの走り方がここ数節とは違い,安定してボールを動かすことで相手から徐々にリズムを奪うことに成功していたように思う。
 リズムがズレているときは,ボール・ホルダーが簡単にボールをさばくことができず,周囲も積極的にパスを呼び込むような動きが少なく,結局足下を狙ったパスが多くなってしまっているように感じる。しかし,今節においては,プレイヤーの足下ではなく,その先にある「スペース」を意識したり,パス・レシーバーの動きを明確に意識したダイレクト・パス,あるいはツータッチ程度でのパス交換が目立った。また,サイドへの意識がゲーム立ち上がりからかなり明確だったように思う。ボールを大きく散らすことで守備ブロックを横方向へ引き出し,さらにレジスタがトップ下を効果的にサポートすることで縦方向にも揺さぶる。本来,浦和が指向しているはずのフットボールが,今節においては明確な像を結んだ。そんな印象を持っている。


 最後に,ちょっとだけ。


 やっと,トミスラフ・マリッチ選手は落ち着いたのではないでしょうか。彼のヒジョーに折り目正しい(!?)あいさつに,そんな感じを持ちました。折り目正しいのだけれど何かユーモラスで,少しだけ(ちょっとの間だけ)重かった心が軽くなった,という感じでもあったかな。
 ボールの出方がマリッチ選手の持っている特性を生かす方向性に微調整された,とでも言いましょうか。今までは,エリア付近での仕事には強烈に強い,という資質を持った選手よりも,スペースへと鋭く切り込みながらシュートを放つタイプの選手が多く,ラスト・パスの質が異なっている(それゆえに,イマイチ生かし切れていない)ような感じがしていたのです。
 今節のゲームによって,彼の生かし方はチームとして共有できたはずです。エリア付近での仕事をさせてやるために,どういうボールを供給するか,などさまざまなヒントが今節にはあったと思います。チームが戦術的な幅を大きく拡げるきっかけとなれば良いな,と思っています.で,彼のあのあいさつ風景,また見たいものです.