「適応」と強化。

「適応力」,あるいは“adaptability”。


 この言葉の意味を,「さまざまな局面において,その都度的確な判断を下していくこと」と考えれば,前回エントリで取り上げた平尾誠二さんが提示したキーワードである「判断力」と言い換えてもいいような気がします。


 というわけで,今回も楕円球方面の話題であります。
 スポーツナビにアップされた時期は平尾さんのインタビューよりも前でありますが,エリサルド・ヘッドコーチ就任会見コメント(スポーツナビ)をもとに書いていくことにします。


 前のエントリでも書いてきたことか,とは思いますが,「ジャパン・オリジナル」を見つけないと国際舞台では活路を見出せないことは,1999年,及び2003年のラグビー・ワールドカップ(予選リーグ)を見れば理解できるところです。エリサルドさんも指摘するように,ラグビー・ネイション同様のフィジカルを求めることには明らかに無理があります。それよりも,日本人選手がもともと持っている高いスキルや俊敏性を存分に生かすプレー・スタイルを指向することの方が国際舞台で勝負するためには有効でしょう。
 ただ,その鋭い出足(俊敏性)を100%生かすためには,「判断」スピードを上げる必要に迫られると思うのです。


 たとえば,スクラムからボールが出る。相手ディフェンス・ラインはしっかりと構築されている。ならば,SHが瞬時の判断でブラインド・サイドに抜け出てもいい。その時にFWがどれだけ速くそのSHのプレーに反応し,スクラムを崩してバックアップに入れるか。これら素早い「判断」の連鎖が日本人の特性を引き出す鍵となる,と平尾さんやエリサルドさんは考えているようです。また,

 スクラムラインアウト以外に、ボールをどう動かしていくかに突破口があると思う。例えば1対1の場面で単純に当たるのではなく、スペースをうまく使っていくとか。・・・(中略)事前にサインでガチガチに固めるようなラグビーにはしたくない。どういったゲームプランが理想かは、これからも考えていく。(出典は,エリサルド日本代表ヘッドコーチ就任会見(スポーツナビ))


という部分には,「適応力」のもうひとつのイメージが具体的に説明されているように思います。


 主要なタスクとなる,ラグビー・ワールドカップにおける一次トーナメント突破,国際ランク10以内を達成するためには,ラグビー・ネイションの屈強な選手のプレッシャーをいかにいなすか,がある意味で武器になり得る。
 となれば,フットボールのように「スペース」をどれだけイメージできるか,が選手に求められていくように思う。当然,ラインの距離感やパス交換という,「横方向」のスペースに対するイメージもそうだが,どれだけキックを戦略的に生かすことができるのか,という「縦方向」へのイメージも同様に重要なものとなっていくように思う。


 ・・・このように見てくると,エリサルドさんは決して「特別なもの」を求めているわけではないことが見えてきます。ある意味,ファンダメンタルな部分と言っても良いかも知れません。ただ,そのファンダメンタルを徹底して熟成,進化させていく,ということのようです。
 となれば,各クラブ,大学でのトレーニング,実戦経験がいままで以上に重要なものになっていくように思います。フットボールの世界でも当然のことですが,代表チームを強化するそのベースはリーグ戦にある,ということをも言外に主張しているようにワタシには感じられます。


 11月5日の対スペイン代表戦に向けて,どのような選手が選出されるのかは現段階では分かりませんが,エリサルドさんがどのようなラグビーを指向しているのか,という部分を見ることができるだけでも,かなり意味があるように思えます。
 当然,平尾さんも言うようにいろいろな意味で「勝たなければならないゲーム」ですから,現状でのベストメンバーが組まれるだろうし,そう期待しています。