Witty Remarks.

タイトルに掲げたのは,「機知に富んだ言葉(コメント)」という英語であります。


 聞き手によっては,凡庸な言葉だけが引き出されたり,あるいは凡庸な質問への逆襲として「強烈な名言」が飛び出すこともある。


 というわけで,ちょっと,言葉からメディアとの関係を考えてみようか,と思います。


 時に,プレイヤーが「そうですね」というコメントをゲーム直後のインタビューで残していることがあります。その場面だけを見ると,ともすればこのフットボーラーはインテリジェンスがないのではないか,と思ってしまう方もおられるかも知れない。
 しかし,専門誌などのインタビューではしっかりとした意見を持ち,インテリジェンスを感じさせる応対をしているときもあるのです。なぜ,ミックスゾーンと,しっかりとしたインタビューとで印象が異なってしまうのか。


 さらに,監督との質疑応答では聞き手の能力が如実に表れてしまうようにも思うのです。ちょっと長くなるので畳みます。


 「機知に富んだ言葉」という言葉から真っ先に頭に浮かぶのは,やはり市原を率いる指揮官,イビツァ・オシムさんだろうと思います。


 記者会見場の空気を和ませるために,必要に応じて「意図的に」洒落の効いたコメントを言うこともあるとは思うのです。ただ,「機知に富んでいる」ということを裏返して考えれば,質問に何らかの問題がある証左なのではないか,と考えることがあります。
 特に,今節の記者会見コメント(J's GOAL)を読み進めていくと,とある部分で引っ掛かってしまうのです。その部分だけを抜き出してみると,

 Q:左手の薬指を骨折している巻選手の起用について。

 「骨折をして試合に出たらダメなんですか? なんなら骨折したことでメダルをあげましょうか」

 

ということになるのですが,この場合は明らかに「逆襲」として気の利いた言葉を言わざるを得なかったのではないか,という感じがしてしまうのです。
 フットボーラーが自らの仕事をするにあたって致命的なケガを負っているにもかかわらず,何らかの意図を持ってスターターとしたのであれば,質問にも一定の意味がありそうだけれど,小指骨折というケガがどれほどプレーに影響を及ぼすのか。さしたる影響なし,という判断が(メディカル・スタッフを含めて)あったからこそ,スターティング・ラインアップに名を連ねたことくらい,容易に想像がつくはず。これでは,オシムさんだって返答に困ったはずです。


 対して,次の質問をした記者さんはゲームを観察し,自分なりの見方でチームを分析しながらオシムさんの考え方を聞いてきました。
 その質問に対してオシムさんは,その記者さんの見方とは違う見解をしっかりとコメントし,冷静なゲーム分析をして見せていたように思います。


 ・・・これらのことから見えてくることは,ある意味当然のことなのですが,「観察」の重要性だと思うのです。


 たとえ,見方がシロート目であってもいいと思う。自分が見て感じたこと,どうしてだろうと疑問に思ったことを聞けば,プロフェッショナルである相手は真摯にそれに答えてくれると思うのです。
 だけど,時に自分の意見だけを押しつけたり,相手に「同意」の言葉くらいしか発せないような質問をしてしまうから,「そうですね」という単純なコメントや,洒落たコメントが発生してしまうのだろうと思うのです。


 かつて浦和を率いていた指揮官,ホルガー・オジェック氏と埼玉新聞のレッズ番・河野記者との記者会見場での関係はある意味,「緊張感と信頼感が入り交じったような関係」だったように聞き及んでいます。しっかりとゲームを観察し,疑問に思った部分を正直にぶつける記者と,そういう「厄介な質問」を投げ掛ける記者を煙たく思いつつも,そんな質問をどこかで待っているような指揮官との関係は,ひょっとすればスポーツ・メディアの方々とアスリート,あるいは指導者の方との関係の理想かも知れません。
 そんな関係から生まれた「名言」は,つまらない質問に対する「名言」よりもはるかに意味あるものだと思うのです。