レアルとブレンデッド・ウィスキー。

ひさびさに欧州ネタなどを書いていこうか,と。


 にもかかわらず,まるで関係なさそうな話から書きはじめてみます。


 シングル・モルトを愛する私にとっても,ブレンデッド・ウィスキーは魅力的なものです。「オマエは洋酒,日本酒問わず,見境なく好きなだけだろう!」という突っ込みもあろうかと思いますが(突っ込まれた方へ。あなたのおっしゃる通りだと思います。),いろいろなカラーを持った「原酒」を重ね合わせることで,新しい「個性」が出来上がる。そんな部分に魅力を感じるのです。


 思えば,拓海良さんのエッセイ(サッカークリック・アーカイブス)にも,ウォルター・ウィンターボトム,ロン・グリーンウッドが好んで使ったとされる言葉として,

 “The world's best eleven players wouldn't make a team. You must have blend.”
(世界最高のサッカー選手を11人集めても強いチームができるわけではない。そこに調和がなければね。)


というフレーズが紹介されていました。


 イングランドはウィスキーの母国と言っていいと思うし,特にブレンデッド・ウィスキーが持つ複雑な味をフットボールと重ねた発言ではないか,と個人的には感じています。そんなことを考えていると,興味深いウェブ・ページを発見しました。


 サントリーのウェブサイトにある,ブレンドの役割(ウィスキー・ミュージアム)というページです。ブレンドの役割自体にもかなり興味深いものがあったのですが,“ブレンダー”という言葉を“マネージャー(あるいは,ヘッドコーチ)”と読み替え,ウィスキーをフットボールと読み替えると,ウィンターボトムさんやグリーンウッドさんが言葉の中に込めた意味が見えてくるような気がします。


 特に,ブレンドの役割を端的に言い表した次の言葉に,ちょっと驚きました。

 通常のブレンデッドウイスキーでは、20〜40種類の原酒が混ぜ合わされています。しかし、ブレンドさえすればどんなやりかたでも必ずおいしくなるというものでもありません。どんな原酒とも調和する優等生的なモルトウイスキーもあれば、中には個性が強烈なために、うまくブレンドしないとその個性が生きてこないものもあります。ブレンダーは、こうした原酒の個性を見抜いて、慎重にブレンドし、優れた製品を創りだしています。(サントリー・ウィスキー・ミュージアムブレンドの役割」より引用)


 チームを構築するプロセスを,まさしく言い表す言葉になっているかのように感じたからです。


 拓海さんのエッセイはジネディーヌ・ジダンユヴェントスからレアル・マドリーへの移籍を発表した頃のものです。そして,レアル・マドリーは当時と同様,チームとしての体裁を整えるのに時間がかかっている。


 確かに,「原酒」である各選手の能力には疑いようがない。しかし,必ずしもコーチング・スタッフが考える戦力構成と,クラブ・フロントが「経営戦略的に」考える戦力構成とが一致するとは限らない。また,自らの思い描くチーム像を強引に推し進めるようなことがあれば,チームに不協和音を生じさせることにもなる。拓海さんも指摘しているように,戦術ベースで選手をピックアップし,チームを構築する代表チーム的な側面と,保有戦力ベースで戦術を組み立て,チームを機能させるクラブ・チーム的な側面を奇妙に併せ持つクラブが,レアル・マドリーと言えるかも知れません。そんなクラブにあっては,戦力のブレンド方法を間違えてしまえば,その持てる個性を充分に引き出すことができないどころか,個性を殺し,チームを機能不全に陥らせることにもなりかねません。「ワールド・ツアー」の影響で,プレシーズンに充分な戦術的な練習をできない環境にあっただろうことを割り引いても,ブレンドに時間がかかりすぎているような印象があります。


 本当の意味での「美酒」になるにはちょっと時間がかかるかも知れない。その間にも,現地スポーツ・メディアはブレンダー(監督)の交代を要求するかのような記事を書いているとか。レアルの憂鬱は,ここ数シーズンの状況(特にシーズン序盤の状況)を正確にリプレイしているかのようです。