プロ化の流れとJFL。

3部リーグ,という考え方もひとつにはあるかも知れません。


 確かに,プロフェッショナル・クラブが多くできてくる,ということは魅力的です。


 また,「分配金」という問題や,メディア露出の増大に伴うスポンサーマネーの流入など,クラブ経営面を冷静に考えれば,ザスパ草津の例を引くまでもなく,できるだけ早くJリーグに参入することのメリットは非常に大きいと言わざるを得ないでしょう。スポーツ・メディアでは愛媛FCのJ参入問題が扱われていますが,愛媛サイドとしても2005シーズンに勝負をかける,ということを開幕前に確認していたはずです。チームのポテンシャルを高いところで維持し,「じっくり構えていられる時間的な余裕」はないのだと思います。
 決してメディア露出が充分とは言えないJFLでは,特定の親会社を持たない市民クラブは「J参入」を具体的な目標として積極的な戦力補強をしたにもかかわらず,J参入に結果的に失敗してしまうと「莫大な先行投資を回収する機会が奪われる」ことになり,もともとの財政的な基盤が弱ければ,資金的なショートに陥る(=クラブの存続自体が危うくなる)可能性が高くなるように感じます。愛媛FCサイドの懸念は,恐らくこの点にあるはずです。


 個人的には,「昇格基準」が揺らいでいるかのような印象を持っているし,何よりバックアップ体制や地域コミュニティの熱意が,チェアマンが言う「ハードウェアの充実」などよりもはるかに重要なことだろう,と思います。「百年構想」の実質的な中身がハードウェアの充実だけにあるのならば,あまりに貧困なスポーツ文化ではないか。そんな感じがします。


 ただ一方で,現在のJFLにも“プロフェッショナルへの架橋”としての可能性を感じていたりするのです。


 地域コミュニティに「プロフェッショナル・フットボールがもたらすもの」をしっかりと根付かせるには,あわててプロ・クラブとなる必要性はないのではないか,とも思うのです。


 ゆっくりと,地域コミュニティに「我らがクラブ」と思ってくれるひとたちを増やしていく。


 地域にあるクラブを,「我がクラブ」と思ってくれるひとたちが増え,実際に競技場へと足を運ぶひとが増えてくれば,地元企業が腰を上げるかも知れないし,あるいは地方に積極的にアピールしたい会社や「チャレンジする姿勢」に共鳴してくれる会社がスポンサーとして名乗りを挙げてくれるかも知れない。
 スタジアムが「我らがクラブ」を支えるひとたちで満員に近い状態になれば,あるいは地元自治体が改修計画を立て,スタジアムの規模が大きくなっていくかも知れない。


 そんな,「昇格条件」をひとつひとつクリアしていくやり方も,あっていいと思うのです。


 体力を蓄積しながら,機が熟せば昇格へ一気呵成に走り抜ける。そんな舞台として,JFLは絶好ではないか,と思うのです。無理にプロフェッショナルに組み込む必要もないような気がしてもいるわけです。


 先日デイリー・テレグラフ(電子版)を読んでいたら,イングランドではプレミアシップの観客動員数は下降傾向にある一方で,下部リーグ(リーグ・チャンピオンシップ)の動員数は増加しているそうです。ライター氏は,「メディア露出の拡大に伴う各クラブの資金力のアップが本来プレミアシップが持っていたはずの勝負の面白さを削ぎ,結果としてサポータがスタジアムから遠のいてしまった」,というようなニュアンスの記事を書いています。『行き着くところまで行き着いてしまったプレミアシップ』と題して。


 強さだけが魅力となっているわけでも,保有戦力だけが魅力となるわけでもない。ましてや,クラブの資金力がクラブの魅力を端的に示すものではない。むしろ,自分たちが「クラブを支えていること」を確認するかのように,競技場へと集うひとたち,クラブと自分との関係がかけがえのないものだと感じているひとたちがどれだけいるか。クラブが放つ魅力の源泉はこの点にあるような気がするし,「百年構想」で目指しているものとは,端的に言えば地域社会に「我らがクラブ」を根付かせることだと思う。ハードウェアの問題は後付けでしかない,と。


 いま,いろいろな地域で立ち上がっているクラブは,あらゆる部分を一気にプロフェッショナルのレベルにまで引き上げることは恐らく難しいでしょう。それでも,「我らがクラブ」と思ってくれるひとたちを増やしていくことはできる。JFLには充分に存在意義があるはずだ,と私は感じています。