フルバック。

基本的にこの言葉を聞くと,“ラグビーフットボール”を思い出す方も多いはず。


 確かに最終ラインに位置しているし,相手の攻撃(特にパント・キック)を受け止める役割を果たしてはいるけれど,同時に攻撃の起点でもある。縦方向にラン・プレーを仕掛け,相手のプレッシャーをステップを切りながら回避,加速していくか,それともキックを繰り出してエリアを回復するか。多様な攻撃オプションが考えられるけれど,少なくとも“バック”という言葉からイメージできるように「守備専業」ではない。


 そして,フットボールの世界でもサイド・プレイヤーを“フルバック”と呼称するケースがある。ラグビーフットボールのように,「攻撃の起点」という意味合いを前面に押し出すのであれば,このような呼び方にも一定の理由があるように感じる。


 こんなことを考えるきっかけとなったのは,東本さんのコラム(スポーツナビ)であります。考えてみれば,フットボールからラグビーフットボールが派生したわけだから,ポジションの名前が重複するのはある意味当然のこと,とも思えるわけです。


 また,興味深かったのはもともとイングランドがドリブル主体のフットボールを展開していた,ということでしょうか。


 言われてみれば,マイケル・オーウェンが世界にその名前を大きくアピールしたゲームは,ドリブルで相手を切り裂きながらシュートレンジに入っていく,というようなプレー・イメージだっただけに,ドリブル・スキルを競っていた頃からの遺伝子は脈々と受け継がれているのかも知れないな,とは思うけれど,どちらかと言えばロングレンジ・パスに依存しているイメージの方が強いように感じます。


 “Passing and Running (Moving)”.


 すこぶる当然のこととして受け止められる原則ですが,実際には90分間プラス“パス・アンド・ムーブ”を繰り返すことはなかなか難しいとも言えましょう。もちろん,攻撃リズムを自在に変化させ,相手守備ブロックを混乱に陥れるためにも“Dribbling”という要素も決して軽視できるものではありません。しかし,守備ブロックを引きずり出し,攻撃面において数的優位を構築することがより重要な要素でしょう。そのためにも,ポジションを積極的に変えることで相手のマークを引き剥がす.これらのことを繰り返すことで相手守備ブロックに綻びを作り出し,決定機を作り出していく。


 イングランドスコットランドの,そしてスコットランドイングランドの影響を受けることで“キック・アンド・ラッシュ”というひとつのスタイルを作り上げたけれど,その基盤にはしっかりとパス・アンド・ムーブという原則が流れている。


 中村俊輔が違和感なくスコティッシュ・プレミアに溶け込めた要因。それは,彼自身の高い能力やセンス,あるいは大きく向上したフィジカル・ストレングスもあるだろうけれど,ひとつにはスコットランドフットボールが持つDNAにあるようにも思えてきます。