上野の森のショールーム。

今回は短めの方向で。


 博物館,というとよほどの企画展でもない限り,積極的に足が向くところではありませんでした。


 だけど何時だったか,とある雑誌に紹介されていた谷口吉生さんが設計された法隆寺宝物館の外観にはヤラれました。パブリックの建物なのに「権威」の香りがせず,むしろ軽快な感じがしたし,落ち着いた外観のカラースキームとエントランスに設えられたちょっとした仕掛けがまわりの緑にかえって映えているようで,一目で気に入ってしまったのです。


 その法隆寺宝物館を入り口として,東京国立博物館のことを調べてみると,面白いことが見えてきました。タイトルにも書いたのですが,建築史を1つの場所で楽しむことのできるショールームのようだったからです。


 本館を設計したのは,横浜を代表するクラシック・ホテルであるニュー・グランドや,GHQが本拠として使用すべく接収したことでも知られる第一生命旧本館を設計した渡辺仁さんであります。本館の外観だけを取り出してみれば,伝統的な和風建築の文法を取り入れたデザインであるために,あまりにテイストが違うので同一の設計家だとはにわかに理解できなかったのですが,内部に入ってみると,明らかに近代建築のスタイルだな,と妙に納得した覚えがあります。


 正門をくぐると正面に見えるのが,渡辺さんの手になる本館です。その右手にあるのが,東洋館。設計家は谷口吉生さんの父君である谷口吉郎さんです。国立劇場も手掛けた方ですが,この方に関しては間違いなく両者のテイストが一貫しています。西洋的な“モダン”と,過去の建築,恐らくは古代建築にテイストを求めている感じがあります。


 ボヤッと建物を眺めるだけでも案外楽しめる。


 また,法隆寺宝物館にあるソファ,文献閲覧用のイスも“ハーマン・ミラー”製だったりして(誰のデザインかはここでは言わないことにしておきます。税金で買っちゃあマズいだろう,というくらいのプライス・タグですからね。),デザインを堪能しに行くだけでも結構良いトコロですよ。