レトロ・モダン。

「現代建築」と,歴史的な建造物との共存,と言い換えてもいいかも。


 確かに,大事に使っていきたい建物であっても「耐震性」という要素がある以上,老朽化(特に,構造面での強度不足)に伴う改築は不可避だろうとは思うのです。一方で,長くその形を留めてきた建物に関しては積極的に保存する,あるいはせめて外観だけでもしっかりと残しておいて欲しい。そう思ったりするのです。


 先日,日本橋あたりをブラブラしていたことを書いたかと思いますが,今回はその続編を,ということなのです。ということで,フットボールとはまるで関係のないお話です。ご興味のある方だけ,畳んである部分を拡げてみてください。


 現代的な技術を使って過去のモティーフを建築に生かす,というアプローチを最初に実際に見たのは,実はロンドンに住んでいたときのことです。


 観光地としても非常に有名なセント・ポール寺院から歩いて4〜5分のところにあるオフィス・ビルがそうなのですが,外観的には一見するとビクトリアン様式であったり,過去において建てられたビルディングの文法を取り入れつつ,よく見ていくとファサードの部分にはグラス・ストラクチュアが採用されていたり,建物の構造部分を敢えて外部に露出させるなど,充分に現代的な手法をも取り入れた建物だったのです。


 現代のオフィス・ビルを設計するにあたっては,過去とは比較にならないほど電気は必要なので,そのためのケーブルや,情報端末用のオプティカル・ファイバーのためのケーブルなどをどう取り回すか,などがかなり重要な要件になろうことは容易に想像できるところです。しかも,古い建物を大改装するとしても,構造部分までに立ち至る改装では,実質的に改築するのと変わらない。ならば,現代的な手法で過去のイメージを再現しつつ,中身は完全に現代的なテクノロジーを生かした,いわゆるインテリジェント・ビルディングとする,という方向性で周辺環境との調和を図ろう,というロジック・フローだったのではないでしょうか。


 もちろん,ロイズ本部ビルディングやロンドン市庁舎など,テクノロジーを前面に押し出すかのような建築も魅力的だけれど,すでに有力建築家(設計家)の「ショールーム」と化しているかのような東京にあっては,むしろこのような「レトロ・モダン」なアプローチに新鮮さを感じます。


 日本橋三井タワーの設計アプローチに共感したのは,日本橋というロケーションに対する配慮と現代的なオフィス・ビルに求められる要素をしっかりとバランスさせているかのような印象を受けたからです。銀座にあるメゾン・エルメスや青山にあるプラダ・ブティックのような建築もその存在を主張する一方で,過去に敬意を払いつつも現代的な印象を与える建物もある。「ショールーム」としての魅力が本当に増してきたのは最近だな,と私は感じています。