オールドファーム。

すっかり,中村俊輔セルティックの中心選手としての立場を固めつつあるようです。


 グラスゴーセルティックへの移籍確定か,という時点でのエントリでは,正直なところ好意的なバイアスとともに希望的観測を「かなり」織り込みながら,中村がスコティッシュ・プレミアのイメージを変えてくれるのではないか,と書いたのですが。私が想像した以上に相当なスピードで,その希望的観測を現実に変えつつある。


 しかし,好意的に中村の活躍を見つめる人間ばかりではない。


 グラスゴーには,もうひとつのビッグクラブがあるのです。


 UKにおいては,“ローマン・カソリックか,あるいはプロテスタントか”という宗教的な部分がコミュニティを大きく分かつ要因となっており,フットボール・クラブであっても例外ではありません。そして,カソリック・コミュニティを背景としているセルティックに対して,プロテスタント・コミュニティを背後に持つクラブとしてグラスゴー・レンジャースがあります。


 彼らの歴史も,セルティックのように“ビッグイヤー”(欧州カップ戦,と言いますか,チャンピオンズ・カップといいますか。)こそ獲得できてはいないものの,欧州の舞台においてはカップ・ウィナーズ・カップを1972年に獲得しているし,リーグ・チャンピオンに輝くこと51回,カップ戦に関しては1894年を最初に31回カップを掲げている,十分に輝かしいものです。そして,近年スコティッシュ・プレミアでチャンピオンズの称号をセルティックと奪い合っている,名実ともに「ライバル」と呼ぶに相応しい関係にあるクラブが今週土曜日に対戦するわけです。セルティックの立場から見れば,敵地であるアイブロックスで行われる“オールドファーム”であります。


 今回の対戦相手であるレンジャースについては,宇都宮徹壱さんのフォト・エッセイ(サッカークリック・アーカイブス)でも触れられています。クラブの歴史や,クラブを代表する選手であるデヴィー・クーパーに関するエピソードなどが,最近のフットボール・ジャーナリスト的な書き方ではない,どちらかと言えばスポナビでの「日記」に近い筆致で書かれています。お時間あればご一読を。


 さて。アイブロックスの住人たちにしてみれば,日刊スポーツの記事が指摘しているように,中村選手がヘンリック・ラーションの再来なのかどうか,が最大関心事だろうと思うのです.セルティックの攻撃を大きく活性化させつつあるキー・パーソンである以上,レンジャース・サポータの中村選手に向ける「敵意」は猛烈なものでしょう。


 “オールドファーム”が持つ歴史を楽しむ余裕はないかも知れないけれど,「歴史あるクラブ」同士の対決はスコットランドイングランドでなければそうそう体験できるものでもないだろう,と思います。ある意味,歴史の重みを持ったクラブに在籍するようになった,という実感を得られるゲームになるかも知れないな,と思っています。