Vodafone Cup 2005。

PSMとして十分に機能するゲームであった,と個人的には感じています。


 言うまでもないことですが,「テスト」的な色彩の強いPSMにあってはファイナル・スコアには興味はありません。むしろカップ戦,リーグ戦に向けてどのような課題を引き出せたのか。その方がはるかに重要だと思っています。「結果」だけに過度にこだわるよりも,積極的にチームとしての戦術の幅を拡げるチャレンジをしてほしい。その意味で,前半の布陣は“チャレンジ”だったのではないか,と見ています。そのギャンブルとも言えるチャレンジに可能性を感じたし,熟成させる価値を持ったものだと思っています。


 そして,その積極的なチャレンジによって,課題もしっかりと浮き彫りにできたように思います。


 前半においてはマンチェスター・ユナイテッドの精度の高い遅攻に手を焼き,後半においては途中出場のクリスティアーノ・ロナウドによる強烈な縦への突破によって守備ブロックは明らかに振り回された部分がある。失点場面においてはポール・スコールズの的確なパス,ウェイン・ルーニーの高い個人能力を賞賛すべき部分が大きいが,全体としてマーキング,ポジショニングの微妙なズレ,あるいはボール・ホルダーへのファースト・ディフェンスを仕掛けるタイミングが微妙に遅くなっている部分を的確に突かれていた印象がある。


 破壊力ある攻撃陣を,どのように封じていくか。組織的な守備と,ストリクト・マンマークに代表されるマン・オリエンティッドな守備とのバランスをどう取るか。


 前半におけるマンチェスターのゆっくりしたボール回しからの攻撃,後半の縦を強烈に意識した攻撃はそのような課題を明らかにしたように思う。


 一方,攻撃面においては浦和のストロング・ポイントを打ち出すことに成功したと感じる。また,新加入戦力がポテンシャルを示してくれたことも収穫ではないか。高い位置からの厳しいプレッシャーからボールを奪取し,少ない手数でボールをゴールまで運ぶ。しっかりとしたフィニッシュまでは持ち込めなかったものの,「形」をつくり出すことができたことは大きいと思う。


 さて,冒頭に触れた”チャレンジ”の話などを。


 どうしても「勝ち点3」という結果を奪い取らなければならない相手を迎えた場合,チームとしてどのような戦略を立てるべきか。そんな視点から今回のゲームを考えると,前半の4バック−3ボランチという布陣はヒントになる。個人的にはそう感じました。恐らく,マンチェスター・ユナイテッドを相手にどれだけ組織的な守備が展開できるのか,という視点から我らが指揮官はテストに踏み切ったのだろう,と思います。もちろん,背景には闘莉王選手の負傷,坪井選手とアレックス選手の代表招集というネガティブがあったとは思いますが,結果的には成功と言っていいように思います。


 実際問題として,対人能力の高いディフェンダーを擁する一方で中盤のタレントにも恵まれています。浦和の「戦力的重心」を冷静に考えれば,確かに中盤という結論になります。また,4バックを採用するからと言って,90分間プラス4人で守備にあたる,というわけではありません。むしろ,時間帯によっては3バック気味に守備応対をしたり,必要とあらば2バックの状況にもなりうるはず。はっきり言えば,ボランチ−サイド・アタッカー,あるいは最終ライン−ボランチの「コンビネーション」の引き出し方を確立,熟成させていくことができれば,チームとしての武器が間違いなく増えるように感じるのです。


 リーグ戦やカップ戦に向けて修正していくべき課題も明確になったものの,「本筋の戦い」を戦っていく上での大きなヒントも手に入れた。いつも通りの戦い方をせずに,ある種のチャレンジを仕掛けたがためのヒントだと思うし,これが最も大きな収穫だろう,と思っています。


 最後に,マンチェスター・ユナイテッドに対してどうしても「好意的なバイアス」がかかってしまう私が印象に残ったことなどを。浦和の話をメインに持ってきたかったので,こちらは「追記」扱いであります。


 と言うと,ゲーム中のことのように思われるかも知れませんが,実は違います。ゲーム終了後のマンチェスター・ユナイテッドの方が,はるかに印象に強く残るものでした。


 最初はゲーム出場メンバーを中心にクールダウンを開始したのか,と思ったのですが,そうではありませんでした。ゲームに出場していなかったメンバー,あるいは出場時間が短時間にとどまったメンバーを中心として,トレーニングを開始したのです。キーパーのキャッチング練習に関してはGKコーチ,キーパー2人が三角形を構成しながらスピーディにボールを繰り出すハードなトレーニングを繰り返していたし,フィールド・プレイヤーに関してもボールを使わないサーキット主体のトレーニングでしたが,その負荷は非常に高いものだったと思います。


 彼らとしてもコンディションを上向かせないと,数週間後に控えたシーズン開幕にスタート・ダッシュを決めることは難しい。プレミアシップチェルシーに奪われ(後塵を拝する勝ち点差ですらない),FAカップに関してもガンナーズにさらわれている。奪われた覇権を取り戻すために,ツアー中と言えどもできることはやっておく。そんな姿勢を垣間見たような気がします。