対広島戦(05−17)。

今節を象徴する場面は,ある意味では相手GKからのリスタートであり,また最終ラインからのビルド・アップを封じたポジショニング・バランスではないか,と個人的に感じている。


 ゴーリーがボールをセットし,助走のためにボールから一時的に離れる。フィールド・プレイヤーはフィードからの攻撃に備えて体制を整える。その時の位置関係に注目した。全体がしっかりと3ラインを維持しつつも,かなりコンパクトにプレー・エリアを限定していることが看取できた。当然,相手がコレクティブなフットボールを展開しているチーム,という部分が大きく影響しているのだろうとは思うが,本来浦和が持っているはずの攻撃リズム,そしてその基盤となる厳しいチェイシング(プレッシング)を引き出すための相手との距離感を取り戻したのではないか,とリスタートの場面を見て感じた。


 同様に,スタジアムにブーイングが渦巻いた場面にも個人的には手応えを感じていた。


 最終ラインからしっかりとしたビルド・アップによって攻撃を組み立てる,という意図をしっかりとしたポジショニングによって封じ,最終ラインを含めた守備ブロックにボールを釘付けにしながら焦れてきた相手のミスを誘い,チャンスと見れば鋭くカウンター・アタックを仕掛ける。
 表面的にはボール・ホルダーに対する厳しいプレッシングとは違うものの,実質的にはオフ・ザ・ボールでの「静的な(=ポジショニングによる)」プレッシングによってパス・コースを切り,高い位置でのボール奪取を意図する,2004シーズン後期以降,基本的なスタイルとなった攻撃の「応用編」と表現すべきものだったように思う。そして,このマイナーチェンジしたトランジションが,組織的な守備から攻撃を組み立てるスタイルを持つチームに対して有効性を持ち得るのではないか,と感じていた。


 そして攻撃面で言えば,「スペース」を意識したパス・ワークが印象に残る。


 浦和が心理的に受けている時には足下へ収まるパスが非常に多く,基本的なポジションがほぼ動かないままに敵陣に侵入してしまうことが多いように感じる。前線の選手にしてみれば予備動作のないままにパスを受け,そこからゼロ・スタートをかけなければならず,相手のファースト・ディフェンスの網にかかりやすいように感じていたが,今節に関してはパスを受けるために積極的にポジションを変え,スピードを持った状況でパスを受けることができていたように思う。サイドからのパス交換によって,守備ブロックを横方向へ引き出し,同様に守備ブロックの裏を狙うパス・ワークによって最終ラインを縦方向にも揺さぶる。
 昨季から継承した“プレッシング・フットボール”というスタイルをどのように進化させるか。そういう部分から言っても,浦和のあるべき方向性を再びピッチ上に叩き付けることに成功したゲームだったように思う。


 いつものように,1日遅れで書いております。


 さて,“Back on the right track”という言葉があります。


 浦和を見続けていると,時にこの言葉を持ち出さなければならない場面に出くわすように思います。MDPに掲載されている小齊さんのコラムが指摘することは,「本来浦和が持っているはずのスタイルを取り戻す」ためには何が必要なのか,つまりは原点回帰のために何を必要としているのか,ということでしょう。技術的,戦術的な部分は確かに重要だけれど,相手に気圧されていてはテクニカルな部分を十分に引き出すことはできないでありましょう。そして,国立霞ヶ丘のミックスゾーンで小齊さんのインタビューに答えた選手たちはしっかりと解答を持っていた。今節,そのことが証明されたのだと思います。


 昨季のように「目指すべきスタイル」に迷いを生じ混乱に陥った結果,ではありません。大宮戦,柏戦は無意識にせよ「受けて立つ」ことを選んでしまった結果,自分たちが本来持っているリズム,スタイルを放棄してしまったかのようなゲームになってしまった。ただ,昨季前半とは異なり,すでに「戻るべき場所」はしっかり構築されている。問題は「どう戻るか」だったのだ,と思います。そして今節においては,持っているスタイルをどのように発展させるか,そのきっかけをもつかめたのではないか。どんな相手に対しても今節のような入り方ができるならば,再び見えてきた影をしっかりと捉えられるはずです。