エメルソン移籍に思うこと。

何とも表現のしようのない感情がある。


 ニュースリリース(オフィシャル)に記載されている出場記録にもあるように,チームとして目指すべき方向性に関して迷走の最中にあった時期に浦和に加入する。前任指揮官の時代,ゼロ・ベースからのチーム再構築という過程から浦和を“トップクラス”に引き上げていく役割を果たしたフットボーラーのひとりでもある。彼の傑出した,ある意味規格外の能力に対して感謝しているのは言うまでもない。ボールを足下に収めてからの爆発的な加速,相手DFを翻弄するステップから相手ゴールに切り込む独特のマニューバ。ゴールマウスを視界に収め,シュート・タイミングと見るやどんなに強引な体勢からでも躊躇なくシュートを放つプレー・スタイル。“ストライカー”という言葉を端的に表すようなプレー・スタイルを持ったフットボーラー,と感じている。


 しかしながら。


 今回の移籍劇の詳細な経緯が見えて来ないから不可解さを感じ,またクラブやサポータとの「信頼関係」を崩されたように感ずる。恐らく,「何とも表現しようのない感情」とは,背信とも言うべき移籍方法に対する条件反射的な反発だろうと思うし,浦和に対して貢献してきたフットボーラーを予想外な形で失うということへの反発だろうとも思う。


 ただ,漠然と思うこととしては,チームがさらなる進化を遂げるためにも,今回の移籍劇が「必然」かも知れない,ということも同時に感じる。


 前任指揮官時代のオールコート・マンマークから鋭くカウンター・アタックを狙う「前後分断型」のスタイルを貫くのであれば,彼のタレントは必要不可欠な要素になるかも知れない。しかしながら,いまは“プレッシング・フットボール”へと大きく舵を切り,攻撃陣,守備ブロック双方にユニットとしての高度な連動性が強く求められ,また中盤,サイドの(最前線への飛び出しを含めて)積極的な攻撃参加を促す必要のあるシステムを熟成,進化させていかなければならない時期だと思う。そして浦和の戦い方の変化は,「規格外」の能力を持つ,“エル・マタドール”からの自立をも意味するのではないか,と感じている。


 それだけに,時期的な問題はあるにせよいつかは“ポスト・エメルソン”システムを考えておかなければならない時期は訪れると感じていただけに,「その時期」が早まったか,という思いがある。


 選手個人に対する思いは,もちろんある。


 そのこととは別に,クラブ,ファースト・チームがさらなる進化を遂げることを重要視したいと思う。ともすれば,クラブが望んだ結果ではないかも知れないが,チームがボトミング・アップする好機と捉えたい。