「トレンド」には表れない魅力。

ネタ枯れに陥ると杉山さんのコラムに頼るような印象があるけれど,それはそれ(あたっている部分もあるだけに,明確に否定できない・・・。)。


 ま,さておき。


 また,杉山さんのコラム(gooスポーツ - NumberWeb)をもとに話を進めてみようかな,と思っております。


 最初に言っておくと,Numberのライターさんにある意味共通する「気になる」部分なのですが,見方が「勝者優先」であるように思うのです。
 欧州カップ戦決勝トーナメント1回戦を思い出して欲しいのですが,プレッシング・フットボールを徹底的に貫いたバルサチェルシーに敗れたとき,ライター氏の多くは”プレッシング・フットボールの限界”が見えたかのような論調だったように記憶しています。ことはそんなにシンプルなことじゃあない!とワタシは書いたかと思うのですが,今回のコラムもその流れにあるような気がして,ちょっと気になってしまったのです。


 恐らく,他のライター氏同様,杉山さんの思考過程では「プレッシングか,リトリートか」という二者択一があるのでしょう。


 確かに,プレッシング・フットボールを標榜するクラブの多くは高いディフェンス・ラインを特徴としているように見えます。しかし,今季ビッグイヤーを奪取したリヴァプールが徹底してプレッシング・フットボールを展開したのか,と考えていくとそうでもないように思うのです。
 同じプレッシング・フットボールを展開するにしても,ボール奪取のポイントを最終ライン近くに設定し,限りなくリトリート(カウンター・フットボール)に近いスタイルを採用しながらプレミアシップ・ポイントを更新したチェルシーの例もある。ライターである杉山氏の名誉のためにも指摘しておけば,リヴァプールバルサのようなプレッシング・フットボールにせよ,チェルシーが展開したカウンター・フットボールに非常に近いプレッシング・フットボールにせよ最終ラインの緻密なラインコントロールと熟成されたコンビネーションが生命線であることは確かなこと。全体がコンパクトに保てないと,ボールホルダーに対する厳しいファースト・ディフェンスや最終ラインからの鋭いロング〜ミドルレンジ・パスが有効に機能しない。その意味においては,欧州の有力クラブが採用する基本戦術を読み解くための要素,そのひとつが最終ライン(を含む守備ブロック)であることは指摘できるように思う。ただ,最終ラインが全体の戦術の中でどのような役割を果たし,どのような形の攻撃を指向しているのか,という部分においては各クラブともに独自性を持っており,明確に「トレンド」を指摘することは難しいように感じられる。


 ここでは何回も書いていることですが,プレッシング・フットボールを普段から展開していても,結果が厳しく求められるカップ戦のゲームなどではリトリート〜カウンター・アタックに近い戦術に修正をかけていくことも求められる,と思っています。
 端的に言ってしまえば,「定石」とされるスタイルがないからこそ,フットボールは魅力的であり続けるのだろう,と思うのです。そして,ボブ・ペイズリーの「ペナルティ・エリアでボールをどう扱うべきか分からなくなったらとりあえずネットを揺らせ。細かい攻撃オプションの話はその後にゆっくりしよう」という言葉が,フットボールの魅力である攻撃の本質を言い当てているように感じます。
 その根源的な魅力を「トレンド」という言葉は表現していない、と思うのです。PSVアイントホーフェンにせよ,リヴァプールバルセロナにせよ,彼らのフットボールの特徴は,共通する要素としての「トレンド」以外の部分,クラブ独自のスタイルにこそあり,それをどう発展,進化させていくのかが指揮官に課せられた大きなタスクなのではないか.ワタシはそう感じます。