進化が導く原点回帰。

イングランドびいきとしては,言うまでもなく表紙に引き込まれて買ったわけです。


 リヴァプールに関する記事が目当てだったわけですな。


 しかし,読み進むうちに,違う記事に興味を惹かれたのです。“Number”628号に寄稿されている西部謙司さんの『速攻と保持 双子の戦術進化論』が,その記事であります。“Number”の場合,一部はウェブにもアップされますが,全文が掲載されるものではないですから(著作権上の問題だと思うです),戦術面に興味のある方はご一読を。なかなか面白く,ワタシは読ませていただきました。


 さて,西部さんの記事はとても西洋的で,最終盤の数段落に主張が集約されています。ある意味,論文的,と言っていいかも知れません。
 ただ,編集サイドが付けたのではないかと思われるフレーズには少々気になる部分が。「次の時代を支配する新戦術」というのがそのフレーズなのですが,よく考えてみれば1974年のオランダ代表が提示したモデルに(要求レベルは遙かに高度になっていると思うけれど)戻っていく過程でもあるのではないか,と感じるのです。


 シロート目で恐縮ですが,「戦術的進化」とは詰まるところ,リヌス・ミケルスが志向したフットボールへの「原点回帰」を意味するのではないか。そう思ったのです。


 “トータル・フットボール”というものが提示されてから30年以上が経過し,攻撃面や組織守備面でエッセンスに分かれて各クラブに継承されてきたものがまた統合されつつある。その過程にあるのかも知れないな,と感じます。オランダ代表によって提示された“トータル・フットボール”は,ミクロ的な見方をすれば洗練の余地が大きいものだったのかも知れません。それゆえ,エッセンス,と言いますか,構成要素に分かれても戦術的に機能できたのでしょう。しかし,マクロ的な視点に切り換えれば,1974年当時で,すでに完成形であったということも意味するのでしょう。


 以前のエントリで,リヌス・ミケルス氏のことについて取り上げたことがあります。


 その時,フットボール・ジャーナリストの大住さんが1974年のオランダ代表を超えるチームを見たことがないと書いておられることを紹介したか,と思います。大住さんが言わんとした意味が,西部さんの文章によって何となく解けたような,そんな気がします。