「前へ」の模索。

「数的優位」をどのように作りながら攻撃を仕掛けるか。


 これはラグビーにおいても重要なテーマになると思うのです。


 特にフィジカルにおいてラグビー・ネイションのように強さと速さを兼ね備えた選手を望むべくもない日本代表では,高いスキルと「組織性」を基盤にしながら屈強な相手ディフェンス網を突破する必要に迫られる。このような観点からパス・ワークを主体にしたシャンパン・ラグビーをフォーマットにしようとしたのではないかな,と。


 前回のエントリでフレンチ・スタイルに触れましたけど,ジャパンを見慣れたひとでないと共有できない話になっていたかも知れません。そこで,今回はできる限りシンプルにラグビー日本代表の課題を書いてみることにします。


 まずは,非常に基本的なことからはじめましょう。


 楕円球をパスする場合,前方へのパスは反則となってしまう(スロー・フォワード)ため,横に出すか,後ろに出すことになります。となると,ボールの位置が相対的に敵陣のゴールラインから遠ざかってしまいます。そこで,トライを奪う,それ以前に敵陣深くに攻め込みトライ(あるいは最悪PG)に向けた攻撃オプションを手に入れるためには「どうボールを前に出すか」,そしてどのようにして相手ディフェンス網を破るか(いわゆる,ゲインを切るということですね。),がラグビーにおいては大きな課題になるのです。


 そこで,日本代表は長い間立ち止まっていたように思うわけです。


 実際,トップリーグレベルでは上位をうかがえるクラブには実力差があまりないために,相手ディフェンス網突破のために対策を立てるべき必然性は薄く,日本選手権を制したトヨタ自動車ヴェルブリッツのようにラック主体のラグビーに近いスタイルのチームが多いように思います。その意味で,ラグビー・ネイションでも主流とは言い難いフレンチ・スタイルはあまり注目されていなかったと言って良いかも知れません。


 しかしながら。


 国内レベルでは,世界的に主流となっているラック主体のラグビー(スタンディング・ラグビーと言い換えてもいいでしょう)でリーグを戦っていたとしても,実際に国際試合でも同様にラック主体のラグビーを展開しようとすれば,体格面で優位に立っている欧州,南半球のチームにゲームをコントロールされ,ボールを前に運ぶことが圧倒的に難しくなる。はっきり言えば,勝ちを狙うことが難しくなってしまうのです。それだけに,ラグビー・ワールドカップ(RWC)において決勝トーナメント進出を至上命題としている日本代表としては,体格差を埋め得るだけの組織戦術が必要とされたのだろう,と考えています。


 さて,今回の本題でもあるジャパンの攻撃時の問題を考えてみると。


 ボール・キャリアーに対して厳しいファースト・タックルが浴びせられることで,ボールがその時点で進められなくなることが問題の原点だと考えています。ボール・キャリアーが止められ,攻撃の流れが寸断されることで相手ディフェンスに早い段階で数的優位を構築されることで,結果としてターンオーヴァをくらう(逆襲を受ける)ことが最も大きなリスクになるのではないか。特に,モールやラックからサイド攻撃を再び仕掛けることは,フィジカル面で残念ながらラグビー・ネイションのレベルには達していない日本代表にとっては難しいタスクになるはずです。ラックでボールをコントロールしようとして人数をかければ,その反動として攻撃のためのラインが充分に構築できず,またカウンター・アタック対策が手薄になる。その状況で逆襲を受けることが最もジャパンにとっては避けなければならない状況だろう,と思うわけです。


 このようなリスクを回避しながら効果的な攻撃を仕掛け,縦の突破を図るためにはいかにラック,モールを作らずに相手ディフェンス網の裏を突くかという部分を考えなければならないのではないか。概して高いスキルを持った選手が多いジャパンにあっては,ともすればフィジカル勝負になりかねないラックで真正面からラグビー・ネイションに勝負をかけるよりも,スキルに加えて高い戦術眼を備え,状況に応じて多様なコンビネーションを展開することで,極力ラック,モールの状況を回避しながら相手ディフェンスの壁を破る(クラックを突く)ことを考える。


 このようなロジックが前提となって,パス・ワークを特徴とするシャンパン・ラグビーを導入しようとしたのだろう,と考えています。


 ただ考えてみれば,東芝府中ブレイブルーパスは以前から積極的にバックスでボールを回しながら攻撃を組み立てるラグビーを展開しており,フレンチ・スタイルに代表される“パス主体”のラグビーを導入する余地は充分にあるように思うのです。もうひとつのヒントはトップリーグの強豪,NECグリーンロケッツが武器にしている“パントキック”になると思うのですが,論旨がブレる可能性があるので,そのことはまたの機会に。


 組織性は短期間で熟成できるものではないだろうと思います。その意味で,今回の南米遠征はファイナル・スコア以上にゲームの局面に応じた評価が必要とされるべき性質のものだろうと思っています。しかし,熟成が進み,状況判断にオートマティズムが感じられるようにまでなれば,日本代表の高いスキルを生かした戦術になるかも知れない,と感じています。