4バックを考える(日本代表の場合)。

まずは,サンスポのこちらの記事をご参照くださいませ。


 ひさびさに日本代表に関連する話をしてみようかな,と思っています。


 さて,さっそくですが本題です。
 リンクした記事,その記事を書いた記者さんの描写だけでは,どのような形でシュートに持ち込んでいるのか不明確な部分があるので一概には評価できない部分はあります。ミドルレンジからのシュートとなるのか,あるいはリターンを受けてからペナルティ・エリアに深く侵入してからシュートを放つのか,この記事からは見えてこないからです。
 それでも,中盤からの鋭い飛び出し,そこからのシュートは攻撃オプションとしては十分に有効性を持ち得るものではありましょう。そして,この中盤の選手によるシュート練習は,以下のような伏線を持つものだったわけです。
 日刊スポーツエル・ゴラッソの記事によれば,指揮官はシステムとして熟成している3バックシステムから4バックシステムへの再変更を示唆(と言うことは,ほぼ4−4−2でイラン戦を戦うということになるのでしょう.)しているのです。


 しかしながら,対イラン戦を目前に控え,戦術の熟成を図るための十分な時間があるとは思えない「現状では」4バックへの再変更は相当なギャンブルだと,ワタシには思えます。


 4のパッケージを動かしているときに顕著だったと思うのですが,中盤がサイドに大きく流れてしまった場合に,SBとの関係が整理されていないためにプレー・エリアが重複してしまっていたように感じます。SBの攻撃に中盤がフタをしてしまう格好になり,攻撃の流れがサイドで停滞してしまう傾向がありました。また,SBが上がっているときに生まれるスペースを誰がどのように消すのか,必ずしも意思統一が図られていなかったように思うわけです(これに関しては,3バックにしても完全には解消されてはいないけれど)。
 このように,攻撃面,守備面での連携に多く問題を抱えていたために,前任指揮官時代から使い慣れている3バックへと変更し,成果を上げている,と。
 ただ,持てる戦力を十二分に生かすために4バックに再変更するのだ,という明確な意図があり,戦術的熟成のための十分な時間があれば,決して4バック採用を否定するものではありません。むしろ,中盤のタレントを豊富に抱える現在の日本代表としては,戦力を最大限に生かすためには中盤を厚くするシステム,具体的には4−4−2(あるいは4−5−1的な4−4−2)が好適ではないか,と感じるわけです。


 具体的に言えば,現代的な攻撃オプションに手を付けるべき時期に差し掛かっているだろう,と感じているのです。どちらかと言えば「古典的な」10番のイメージに忠実な攻撃を展開している印象が今までは強かっただけに,高原選手,あるいは玉田選手を1トップ(ターゲット・プレイヤー)的に前線に置き,1.5列目程度の位置からトップ・スピードで走り込みながらパスを受けてシュートに持ち込む,というシャドー・ストライカーのような動きを中田選手であったり,中村選手や小笠原選手に期待したいわけです。
 全体のバランスを考えれば,前任指揮官のころから日本代表が採用し,各選手にとってもやりやすいであろう3−5−2を採用するべきかも知れない,とも思うのですが,“ハーフコート・カウンター”という部分を考え,かつサイド攻撃を積極的に繰り出すには,4バックをある程度視野に入れておくことも必要かな,と考えるのです。
 この点において示唆に富んでいるのは,2002年ワールドカップにおける組織戦術,攻撃の傾向に関するFIFAテクニカル・スタディグループの分析です。宇都宮徹壱さんがスポナビフットボール・カンファレンスに出席したときの記事を寄稿されていますが,そこには2002年大会におけるトレンドが簡潔にまとめられています。確かに旧聞に属する情報ではありますが,2002年大会におけるフットボール・トレンドとして列挙された項目は,現代においても十分に通用する要素を持っているように,ワタシには感じられます。
 ハーフコート・カウンター(あるいは,ショート・カウンター)を効果的に仕掛けるには,前線からの執拗なチェイシングによってパスコースを限定し,中盤において的確なファースト・ディフェンスを掛ける必要があります。場合によっては,局地的に数的優位を素早く構築することから厳しいプレッシングをボールホルダーに掛け,ボールを奪った後はサイドや前線に展開する。全体が大きく前に押し上げる中で,シャドー・ストライカーや場面によっては後方のボランチも最前線に積極的に飛び出すことで,チャンスを大きく広げる。
 問題となるのは,Jリーグにおけるトレンドはまだ3バックにある,ということです。今季からディビジョン1に昇格した大宮などが4バックを基本とした戦術を採用していますが,少なくとも多数派を形成するには至っていません。それゆえ,ディフェンス・ラインに問題を抱える可能性もあるけれど,ボランチとの連携を強化すること,ライン・コントロールとブレイクのタイミングに集中して時間を割けば,思ったよりも短い時間に4バックを可能にする基本条件は整うかも知れない,とも考えています。


 本来,フィリップ・トゥルシエ時代から「正常進化」を果たした日本代表が仕掛ける攻撃のピクチャーは,このような“トータル・フットボール”的なものではないかな,と思っているだけに,そのきっかけとなるのであれば,「4バック導入」も評価できるのですが。
 願わくば,指揮官が「現代的な攻撃オプション」を導入してくれることを,と思います。