ラグビー日本選手権−セミファイナル展望。

Ernestであります。今回は,日本選手権準決勝を占ってみようと。


 組み合わせを見る限り,ある意味ではごく順当なチームが準決勝の舞台に上がってきたと評価できるかも知れません。しかし,早稲田大学に対して結果的には「順当勝ち」と言えるだけの点差をつけてはいたけれど,ゲームの組み立てとしては明らかに苦戦を強いられたトヨタ自動車ヴェルブリッツのように,トップリーグ上位と学生代表との距離は一時ほど開いてはいないのかも知れない,と思っています。
 返す返すも,早稲田がヴェルブリッツ陣内,恐らくフラット・ディフェンスを敷いて待ち構えていたであろう22mラインの壁を破れなかったであろうこと,またヴェルブリッツが攻勢に転じた時に微妙にズレが生じてしまったディフェンスによって,難波やセコベの突破を許してしまったことが惜しまれます(全部見ているわけではないから,実に断片的なのが何とも,ではありますが)。


 ま,過ぎたことは置いて。本題のプレビューであります。


 さて,組み合わせを見ますと,東京・秩父宮ラグビー場では東芝府中ブレイブルーパス(リーグ1位)−トヨタ自動車ヴェルブリッツ(リーグ4位)というカードが,もう一方の会場である近鉄花園ラグビー場ではNECグリーンロケッツ(リーグ3位)−ヤマハ発動機ジュビロ(リーグ2位)というカードが組まれています。トップリーグで上位を独占したチームが見事に振り分けられた,とも言えるわけです。
 となれば,ちょっとトップリーグの成績や各種スタッツをもとに,ゲームの流れを予想してみるのも面白いのではないか,と。というわけで,トップリーグ・オフィシャルサイト内のリーディング・ボードを利用してみることにします。


 あくまでも数字を基礎に「こんな戦い方になれば・・・」という期待値も入っていますので,今季の各チームの戦い方を正確に反映しているわけではありません。あらかじめ,その辺はご承知置きくださいませ。


 では,ブレイブルーパスヴェルブリッツから見ていきますと。


 両者はトップリーグ第2節で対戦しており,この時は48−19で東芝府中が勝利を収めています。ゲーム・スタッツを見る限り,ブレイブルーパスの圧倒的な攻撃力(前後半合わせて8トライを挙げ,4コンバージョンを成功させている)をまずは指摘する必要があるのは確かですが,むしろ注目すべきはヴェルブリッツのディフェンスがどのように機能するか,ではないかと感じます。
 ヴェルブリッツは今季トップリーグで3敗を喫しているのですが,ブレイブルーパスサンゴリアスと自陣深い位置からでもバックスでボールを展開し,ボールを敵陣深くまで持ち込もう(=つまり,マイボールを失うリスクを同時に持つキックは極力選択しない。)という戦術意図を明確に持ったチームに苦戦を強いられている,という部分が興味深いところです。
 以上のスタッツからヴェルブリッツの弱点を推測するなら,バックス,フォワードが有機的に連携したフィールドを大きく使った攻撃に対してファースト・ディフェンスの段階でボール・ホルダーを止められず,守備から攻撃への切り替えのポイントが明確に作れないことがあるのではないでしょうか(反則数が比較的多いことも,守備面に関連して気になるポイントとして良いかも知れません)。結果として,ボールへの集散が巧く機能しなくなることでディフェンス面で数的優位を構築し切れていないのではないか,と思うのです。
 では逆に,ヴェルブリッツブレイブルーパスをどのように攻略するか,という視点から見ると,ブレイブルーパスの強固なディフェンス・ラインをいかに揺さぶるか,という点に集約できるのではないかな,と。フラット・ディフェンスを採用するチームは概してラインを高い位置に保とうとする傾向が強い。その裏を積極的に狙っていくためにも,敢えてキックを多用しながらバックスが積極的にボールにプレッシャーを掛けていく必要がありそうです。また,自陣での不必要な反則を極力なくすことも必要でしょう。両者ともに慎重な立ち上がりが予測される準決勝という舞台で,自陣での反則は相手を心理的に優位に立たせるだけでなく,貴重な得点機をみすみす与えることになるからです。


 このように見てくると,東芝府中の攻撃力をどのようにトヨタ自動車が跳ね返していくか,というディフェンス面がゲームの鍵になりそうな感じがします。東芝府中が慎重にゲームに入ってくれば,トヨタ自動車のチャンスは大きく広がるかも,などと想像しています。


 さて,もう1つのカードであるグリーンロケッツジュビロでありますが。


 トップリーグでは第8節で対戦し,37−22でジュビロが勝利を収めています。ファイナル・スコアだけから考えれば,ジュビロがセーフティ・リードを保ったままに快勝,とも見えます。ですがスタッツをチェックしてみると,実質的には「両者拮抗」と言えそうです。
 前後半のトライ数はNECの3に対して,ヤマハが4。コンバージョン決定率も両チームともに2/3。PG数を見ると,NECが1ゴールを決めているのに対して,ヤマハは3ゴールを挙げています。逆に反則数はNECが15に対して,ヤマハは18となっています。
 トライ数で大きく水を開けられているわけではないグリーンロケッツにとっては,不用意な反則を取られないこととともに,PKを確実にモノにする必要がありそうです。恐らく,準決勝を勝ち抜くためにはヤマハ対策としての戦術的変更をするよりも,実際のゲームにおいてメンタル面で受け身に立たないことが重要なファクタになるように思われます。

 逆にジュビロにとっては,PG成功率が非常に高いことから,敵陣深くに攻め込めるチャンスには必ず攻撃を途切れさせないという意識を持っておくことが重要ではないかな,と。ポイントができた時などに相手の反則を誘えれば(=ラックなどの混戦の中では,意図しなくとも倒れ込みやオフサイドなどの反則を犯してしまう場合があるのです。具体的に言えば,そんな状況に持ち込むことです。),場合によってはPKを選択する方がゲーム全体として有利に働くことがあります。そういうゲームの流れになるかも知れません。
 となると,こちらのカードはひょっとすればノートライ・ゲームになるくらいに両者相譲らない,激しい攻防が期待できそうであります。


 どちらのカードも,ラグビーのあらゆる魅力(接近戦の迫力や,心理的な駆け引きなど)を見せてくれる興味深いゲーム内容になるのではないか。そんな期待感があります。