必然性のない台詞はない、と言うけれど(「0円移籍」の話)。

鹿島サイドに対して,「移籍金を受け取っていただきたい」といった趣旨の話をしていたという某代理人氏。


 恐らくは,フランスリーグ(リーグ・アン)の移籍期間,具体的に言えばマーケット・クローズの日程が頭にちらついていたのでしょう。どうしても,1月31日以前の移籍成立を狙っていたのだろうな,と思われますな。


 表題にも掲げましたが,某代理人氏が言ったとされる冒頭の台詞,必然性を伴ったものだったのだな,と。交渉決裂の時点でメディアが報じているような状況を想定していたとすれば,鹿島フロント陣,相当の策士ですな。各クラブの担当者様にも非常に参考になる情報であったことでしょう。


 イヤミから入ってしまいました。Ernestです。こんばんは。


 果たせるかな,代理人氏が抱いたであろう懸念は見事に現実化したわけですが。


中田浩デビューに待った(日刊スポーツ)
中田浩二、マルセイユ移籍白紙も(サンスポ)


 オリンピック・マルセイユ(OM)サイドからすれば,契約締結日を2月1日とすれば,契約満了に伴い鹿島の支配下から離れる(=日本での契約では,契約満了が1月31日,というケースが多いので,2月1日になれば自由契約選手となる)わけだから,「移籍金ゼロ移籍(フリー・トランスファー)」が成立する,と思っていたのではないでしょうか。とは言え,交渉開始当初は移籍金の打診をした経緯もあるのだから,ひょっとすれば少々強行突破気味だと自覚していた可能性もゼロではないでしょう。ともかくフランス連盟としては,日本国内のシーズンの開始(終了)時期はさておき,フランスリーグの日程に合わせて今回の移籍を判断した,ということになるわけです。フランス基準に当てはめれば,リーグ開幕の8月時点では鹿島でプレーしていたのだから,鹿島の支配下選手,という解釈となるようです。となれば,自由契約選手ではない以上鹿島からの移籍証明書が必要,ということになります。また,OMから鹿島への移籍金の支払いがなければ,今回の移籍は有効性を持たないことになる,ということになるはずです(と,まとめながらも混乱気味ですけど)。


 となると,国内日程が欧州基準の日程になっていないから,このような移籍問題が持ち上がるのだ,と批判される向きも多いでしょう。3月開幕,ではなくて9月開幕にすべき,とする理由のひとつですね。


 しかし,国内事情をいろいろ勘案すると,現状を大きく変えることも難しいのも確かです。


 要は,代理人氏の交渉能力というか,政治力(=強行突破を最大限回避し,移籍ビジネスを将来的にも円滑に進めるための根回し能力と言い換えてもいいかも知れません。)が問題アリだった,という部分もあるのではないかな,と見ています。少なくとも,国内クラブのフリー・トランスファーに対する意識はそれほど強くないし,であれば具体的な防衛策も確立できていないわけですから。


 そもそも,ひととひととの信頼関係を作るのに,国際ルールも国内規定も関係ないのでは,というのが個人的な印象です。交渉相手方(今回のケースでは“全ての利害関係者”と言い換えてもいいように思います。)に,「信頼に足る相手だ」と思わせなければ,代理人としての仕事は事実上失敗,と評価しても良いはずです。


 1回だけのお仕事であろうとも,もっとクライアント,実際の交渉相手方双方に対して配慮する必要性があるはずです。プレイヤーズ・ファースト,このケースでは移籍を考えているフットボーラーがどのように考えているのか,という部分が最も大事にされるべきは当然のことです。しかしながら,移籍はクラブ間の「ビジネス」という側面も持っています。確かに,国内クラブは欧州の移籍動向に対して感度が低い,という側面は否めないし,戦略的な契約管理,という側面が抜け落ちてもいるようにも思います。であるとしても,いたずらに国内クラブとの関係を悪化させる,国内クラブの無策を突くかのような移籍戦術をとるのは得策ではない。選手の代理人,のみならず,移籍先クラブの代理人ではないか,と疑われかねないように思うわけです。


 にもかかわらず,代理人には巧妙に立ち位置を見極めながら仕事を進めよう,という「政治性」が見えてこない。「理」だけではなく,「理」の中に「利」を巧妙に織り込まないと,ひとは動かない,とは司馬遼太郎氏が坂本龍馬に語らしめた台詞ですが,現代にもこの法則は生きているものと感じます。「人間関係」をビジネスの大きな基盤としているのであればこそ,傍目からは「クライアント偏重」,加えて移籍先とすでに意思を通じているのではないか,と評価されても仕方がない現在のビジネス・スタイルは,将来的に国内市場での仕事を困難にするだけではないか?と思うわけです。


 ・・・ま,大きなお世話ですけどね。彼とてビジネス・パーソン.シロートにすら言われるようでは・・・(以下,略)。


 さて,詰めが甘かったのはOMのスタッフなのか,件の代理人氏か。その双方という見方が最も的確なような気が私はしますが。いずれにせよ,まだ波乱がありそうです。