立脚点は違えど。

「親会社との関係が,決して一方的な依存関係に堕してはいけない」。


 フットボール・ビジネスに携わるプロフェッショナルとして極めて当然の考え方を,当然のこととして表明している2人のトップに,敬意を表します。Ernestです。


 今回は,サッカーマガジンに掲載された犬飼基昭浦和レッドダイヤモンズ代表と左伴繁雄・横浜マリノス社長との対談記事を取り上げてみたいと思います。


 不定期連載(?)クラブ論の番外編,って感じでちょっと話を進めてみます。


 まずは,浦和のボスが(意図的に,だと思いますが)「中野田の『欧州標準』への改修」を明言し,アウェイ・サポータに対して中野田と駒場の条件をある意味一緒にしようとしているのが興味深いところです。


 表面的な発言だけを見れば確かに攻撃的ではあるけれど,恐らく犬飼さんの真意は「アウェイ・サポータの囲い込み」だけではないはずです。スポンサーに対するクラブの発言権を確保し,条件交渉を有利に展開する(=より多くのスポンサーマネーを獲得する)ためにも,高水準で安定した観客動員が必要であることを,長い海外駐在経験を持ち,アヤックス・アムステルダムなどの経営環境を知る犬飼さんはすでに気付いているのではないでしょうか。そして,チャンピオンシップを通じて確信したのだろう,と推理しています。言わば,チャンピオンシップ第2戦の雰囲気とも重なる,「アウェイ・サポータに5000席を下回るシートしか物理的にアロケートできないほどの観客動員」,“シーズン・チケットホルダー”が「クラブ財政を支える重要な要素」であることを明確に示しながら,駒場のような雰囲気を中野田でも常に作り出すことをサポータ,ファンに求めているのではないでしょうか。そんな真意が裏に隠れた上での「アウェイをアクリル板で囲い込む」という発言なのではないか,と。


 そう,私は感じているのです。


 同様に興味を惹かれたのが,左伴さんによる横浜の観客層分析です。


 最も印象に残ったのが,「横浜には『選べる文化』を前提にした観客、いわゆる浮動票が多く、観客動員に関する考え方は、浦和とはクラブとして異なるアプローチをする必要がある」という部分です。確かに,横浜は「浮動票」が多いであろうことは分かる気がします。しかし,そうであるならば現在活動している下部組織のさらなる拡充を図ればいいのでは,とも感じます。練習環境のMM地区への集約も重要な要素となる一方で,普及・育成活動のために現在活動している各スクール(地域的な練習活動拠点)整備,拡充のための追加投資もまた必要となってくるのではないでしょうか。その意味で,以前岡田監督がメディアに対して言ったとされる「下部組織は不要」というニュアンスの発言には同意できるものではありません。


 決して,横浜の潜在的な観客動員は低水準に留まるものではないだろう,と思います。金沢区に隣接する横須賀市をホームタウンとして追加申請するということも重要な決断ではありますが,横浜市という枠内においてもできることはまだあるはずだ,と感じるところがあるのです。現状においては,横須賀市を追加的にホームタウンとしたことと,親会社である日産の横浜,横須賀地域におけるプレゼンス強化戦略とは決して無縁ではない,と感じています。以前のエントリで触れたように,企業ベースのクラブも問題はないとは思うけれども,「地域に対して積極的に関与していこうとする」姿勢はプロフェッショナルのクラブとしては必須条件だと見ています。キメの細かい普及活動は,恐らくは将来的な観客動員数の増加に繋がっていくことにもなるはずです。また,父兄がスタジアムに足を運ぶ,という可能性も大宮の例を見ると考えられます。そのためにも,現行のスクールが今以上の機能を持っていないと,横浜市という大きな面積を持った地域では「マリノスというブランドを普及、浸透させる」のは難しいのではないか,と感じていますし,恐らくマネージメント・スタッフは戦略を立てているのではないか,と思っています。


 ファースト・チームが強さを維持すること。


 それ自体が観客動員などに好循環をもたらすことは言うまでもないけれども,地域が積極的にクラブに関わり,支えているという実感を持つこともまた,クラブが長期にわたって安定的な成長を遂げるためには重要な要素でしょう。犬飼さん,左伴さんはそういうことを皮膚感覚で実感し,具体的なアクションを既に起こしているように見えます。浦和,横浜のこれからが本当に楽しみ,です。