アカデミー主体のクラブの可能性。

連続エントリです。


 Ernestです。こんばんは。


 前回ちょっと触れた代理人氏のおかげで,いろいろと移籍にまつわることを考える機会が多い今日この頃であります。そこで今回は,クラブ論と移籍(と言うか,戦力補強)を関連させてエントリを立ててみました。


 タイトルでは「アカデミー(=ユース,ジュニアユースに代表される下部組織)主体のクラブ」と表記しましたが,正確に表現するならば,かなり理想主義的な表現になりますが,「アカデミーを基盤として戦力を構築し,基本戦術での各世代の継続性,一貫性を保持しつつ各世代でトップレベルの強さを兼ね備えたクラブ」とすべきか,と。そんなクラブが中期的な視点に立って成立するかどうか(=しなければならないし,成立させてほしい,というのが願望のひとつでもありますが。),するとすればどのような条件が必要となるのか,ちょっと考えてみようというわけです。


 まず,ちょっと長いですけど,前提論を。


 積極的な補強戦略自体は,即座に否定するものではないです。


 ファースト・チームにいろいろな意味での刺激を与える(=選手たちに対して緊張感を与え,「健全な競争原理」を維持することが,その中核と捉えられるはずです。)意味でも,戦力補強は重要な意味を持つからです。


 しかし,クラブとしての継続性を疑われるまでの補強策は長期的な視点から見れば,ネガティブな効果を与える可能性が高いのではないか,と感じるわけです。まず,既存のチームと新規獲得選手との融合にどれだけの時間を要するか未知数であること,既存チームの心理マネージメントにコーチングスタッフが失敗した場合,チームの空中分解を招く可能性を一定程度視野に入れておかなければならないだろうことなどが指摘できるからです。また,チーム全体の緩やかな世代交代,具体的に言えば,生え抜き選手の台頭や下部組織からの内部昇格によるチーム全体のボトミング・アップの流れに対して,新規獲得選手が「阻害要因」に(結果的,であるにせよ)なってしまうこともあり得るのではないか,とも言えます。


 そうならないためにも,チームが拠って立つべき場所をしっかりと構築しておく必要がある,と思うのです。抽象的な言葉になってしまうのですが,恐らくそれは下部組織からファースト・チームにまで一貫している戦い方や戦術などを含めた,「スタイル」のようなものかも知れません(これでやっと本題に入ります。クドくて申し訳ない・・・。)。


 以上のような視点から言えば,イタリア的な“プロビンチア”,ビッグクラブへの選手供給によってクラブ財政を安定させるという「消極的な」(と敢えて言わせていただきます)基本姿勢を念頭に置くものではありません。むしろイングランドのビッグクラブ,例えばリヴァプールマンチェスター・ユナイテッド,あるいは90年代後半のリーズ・ユナイテッドを地理的な条件などをも含めて念頭に置くものです。そして,まだ本格的プロリーグ発足から10年あまりを経過したに過ぎない状況では,どのクラブにも平等に“ビッグクラブ”となるチャンスがある,と言っていいのではないかと思います。


 財政的な部分を前面に押し出せば,特定の親会社との密接な関係を持たずに地方都市をホームタウンとするクラブでは,ビッグクラブと目されているクラブと同様のやり方を押し通したところで物理的な限界がある(つまりは,資金的にショートする恐れが高い)だろうとは思います。実際問題として,カルチョメルカートで活発な動きを見せているクラブは親会社の積極的な支援を受けていたり,また安定した観客動員を背景とした堅固な財政基盤を持っています。対して,地方のクラブは財政的には厳しい運営を強いられているのは事実です。


 しかし,「中・長期的な視点で」先行投資として育成・強化部門からのクラブ構築を始めていけば,立場を逆転させることも可能になるのではないでしょうか。言い換えれば,積極的な補強施策によって戦力維持を図るビッグクラブを,中長期的戦略で凌駕するための戦略的なプログラムとして,積極的に選手育成部門の強化を捉えてみてはどうか,というものです。昨季,非常に積極的な補強に動いた浦和が今季は高校生の獲得をメインにし,ユース組織の整備と含めて選手育成に積極的に踏み出してきたかのような印象を受けるのは,クラブが財政的自立に踏み切ったことも含めちょっといいこと,のように個人的には感じます。


 また,稲本潤一(現在はカーディフ所属),宮本恒靖のような代表クラスのタレントをジュニアユース,ユース組織で積極的に育成,トップチームへと送り出してきているガンバ大阪の例や,日本クラブユース選手権,Jユースカップ高円宮杯で好成績を収めているサンフレッチェ広島ユースのようなケースもあります。過去においては,フリエユースが人材輩出に関しては知られていました。


 残るは,トップチームとの有機的な結合であります。


 つまり,ユース組織が独立して強いかのような印象を与えるのではなく,トップチームとある種共通する“スタイル”を持てるようになれば。また,将来に向けた潜在能力を感じさせながら,強さ,加えて望むなら「美しさ」をユース,ジュニアユースが備えるようになれば,リーグがさらに面白くなるのではないでしょうか。


 このように下部組織を戦略的に捉える傾向が地方のクラブからももっと積極的に出てくれば,地元企業のいままで以上の財政的支援が引き出せるかも知れない,などという可能性も含めて現状の関東〜東海偏重とも言えるパワーバランスが決定的に変わる契機になりうるかも知れない。そう考えているのです。


 古き佳き(と言わなくてはならないのが,ちょっとばかり悔しいが)イングランド的な強固な下部組織を持つクラブが出てくれば,リーグ全体にとっても大きな刺激になるのではないか,と感じながら今年の移籍市場の動向を眺めていました。