冷徹な戦略(クラブはどう移籍を捉えるべきか)。

前置きなしで,いきなりはじめさせていただきます。Ernestです。


 冒頭から刺激的な台詞を持ち出しますけれど。


 「選手は戦力であると同時に、貴重な商品でもある」。


 クラブ首脳,特に社長や強化担当責任者にあってはこのような共通認識を持つべき時期に差し掛かったのではないでしょうか。


 というのも,スポーツ・メディアで目にした牛島・鹿島社長の言葉があまりに「ナイーブ」な感じがしたからなのです。・・・長くなりますので,ここでいったん畳みます。


 確かに,支配下にあったはずの選手の「無償流出」という事態は最悪の結果であり,Jリーグ全体に対しても悪しき前例を作るものだと思います。加えて,契約満了を念頭に置きながら鹿島との交渉を有利に進めようとしたオリンピック・マルセイユの鹿島に対する交渉姿勢も,(道義的に見れば)褒められたものではないでしょう。


 しかしながら,欧州での移籍形態を念頭に今回の騒動を見れば,鹿島の脇の甘さを指摘されても仕方がない部分もあるような感じがするのです。であるならば,事の是非は別としてクラブ防衛という観点から「危機管理」を見据えた契約形態,国際ルールを視野に入れた契約形態に早急に移行すべき時期かも知れない,と感じます。


 欧州での大型移籍は概して複数年契約の中間年に行われている,というのは決して偶然ではない,と感じています。戦力的な空白を避けるために,移籍を「クラブ主導」で進める,という明確な意思があるように思うわけです。


 プロフェッショナル・フットボーラーとしての寿命は決して長くはありません。各選手がより高いレベル,自らのパフォーマンスを最大限発揮できるパッケージを模索し続けるのは,ある意味当然のこととして受け止められます。


 しかし,選手の希望を無条件に認め続けていては,フットボール・ビジネスが成立しません。


 そこで,「クラブ主導で積極的に移籍市場で活動する」,長期的な戦力設計を基盤とする戦力マネージメントが必要不可欠な要素になってきます。その具体的手段として,主力選手に対しては複数年契約を提示し,必要に応じて中間年に選手自身の意思(クラブ残留か,移籍の意思があるのか)を慎重に確認しながら,並行して冷徹に当該選手の市場価値を判断する。獲得を狙うクラブなどの動向を冷静に見ながら,他クラブへと戦力を高値で売却するタイミングを狙う。その中で,選手,クラブ双方の思惑(年俸額,移籍先,移籍金など)の着地点が慎重に探られることになる。マイケル・オーウェンレアル・マドリーへの移籍劇は,リヴァプール・サイドの思惑(=高額の移籍金を獲得することで,戦力補強のための軍資を確保する),レアル・マドリー・サイドの思惑と,オーウェン自身のキャリア設計が複雑に交差した,まさしくこの典型例と評価できるのではないでしょうか。


 ・・・というような感じで欧州の選手移籍は行われているように,少なくとも私には見えます。


 そのような「商慣習」の中にいるオリンピック・マルセイユにとってみれば,すでに具体的な戦力としてよりも「魅力的な商品」として映っているだろうと思うのです。恐らく,マルセイユ首脳の中では,中田英寿ペルージャからローマへの移籍や中村俊輔レッジーナでの活躍,それに伴う移籍話が具体的なイメージとして今回の移籍劇と結び付いているのではないか,と推理します。複数年契約を提示した,となれば将来的に初期投資額を大きく上回る金額での売却を目論んでいるのでは,と思えるからです。


 そのような文脈で今回の移籍劇を解釈すれば,鹿島だけが貧乏クジを引かされ,今回の代理人の交渉姿勢が欧州に対し,Jリーグからの「商品調達方法」を具体的に教授してしまったことが見えてくると思うのです。


 1990年代以降,メディア露出の拡大などの諸要因によってフットボールのビジネス化は一層加速しました。移籍関連で言えば,有名な「ボスマン判決」以降,各クラブが(場合によっては自衛手段的に)積極的に移籍市場で活動する傾向が強まっているように感じます。UEFA以上に欧州各国リーグを代表するクラブの発言権が強まっている,というのもフットボールがある部分では冷徹なビジネスに変化していることを意味しているように感じます。選手の海外志向の強さなどを思えば,その潮流に否応なく日本のリーグも関わらなくてはならない時期になってしまったのだ,と感じます。


 ある意味残念な話ですが,クラブを“ファミリー”としてとらえられなくなりつつあるのかも知れません。


 少なくとも,Jリーグを取り巻く状況は,選手の海外移籍が増加するにつれて次第に「欧州化」してくるでしょう。それゆえ,契約条件の隙間を突くような移籍劇を回避しつつ,選手の希望にも一定程度応えられるような危機管理を見据えた契約形態が必要だと思うのです。このようなことを考えるきっかけを与えてくれた代理人氏には,(精一杯の皮肉を込めて)感謝の意を表したいと思います。それ以上に選手流出にも揺らぐことのないクラブ形態を考えておくことも,また必要だろうと思うのです。


 これに関しては,テーマがちょっと変わるので,エントリを改めたいと思います。