鹿児島実業対市立船橋戦(第83回全国高校選手権決勝)。

何と言うか,プロリーグのゲーム,しかもタイトルのかかったビッグゲームを(スケールの差はあるにせよ)見ているような感じがしました。


 いきなり分かったような分からないような,はたまた結論めいたものを書いていますが。


 Ernestです。ヘマやらかしたおかげで私自身が「リプレイ」してます(謎解きは↓を参照のこと,なんて言ってみる)。こんばんは。


 今回は(「も」と言うか,私の基本的傾向として),ちと長くなります。


 まず,中継内でも触れられていましたが,最近のサッカー高校選手権がさまざまな問題を抱えていることは事実でしょう。しかし,高校選手権が物理的な限界(つまりはタイム・スケジュールからくる諸問題)を抱えている以上,ノックダウン・スタイルのトーナメントになるであろうこと,また,タイトル奪取を現実的目標として視野に捉えている参加校がそのトーナメントを勝ち抜くためにリアクティブな戦術を採用することは「ひとつの最適解」であろうと思うし,私はそれに異論を差し挟むつもりはありません。


 それならばむしろ,都道府県予選をリーグ戦としてしまえばいいのではないか,と私は考えています。その中で,複数の「最適解」がいろいろなチームの中で出てくるのではないか,と思うのです。


 ・・・話が逸れました。この話題についてはエントリを改めまして(ちょっと多いかな.このパターン)。


 まず,市立船橋に対する印象だが,中盤の底〜最終ラインの堅固な組織的守備を基盤とする戦術をしっかりと選手が共有している,というものだ。対して,鹿児島実業は準決勝で実際に見た限りでは前線〜中盤の高い位置からのチェイシング(プレッシング)からボールを奪い,素早くアウトサイドに展開しゴール前に折り返していく,という攻撃的な特徴が安定した最終ラインと同様に印象に残っている。


 実際,前半のゲームはこの印象の通りに推移していったように思う。


 鹿実は積極的にサイド攻撃を仕掛けてゴール前にボールを供給しようと試みるが,市船の最終ラインが丁寧に鹿実最前線の選手に対して応対し,バイタルエリアで決定的な仕事をさせなかった。市船の最終ラインは堅実な守備応対で鹿実の攻撃をはね返すと,中盤の圧力を避けるように中盤での組み立てを最低限にとどめながらアウトサイドにボールを展開することで攻撃の起点を作っていた。そのため,ボール・ポゼッションでは鹿実が優位に立っているように見えるものの,裏返してみれば市船が鋭いカウンター・アタックを繰り出すために敢えて「攻めさせている」ようにも思えた。そんな静かな,しかし中に緊張感を隠し持つような展開だったように思う。


 対して後半は守備バランスを決定的に崩しはしないものの,積極的に攻撃を仕掛けようという意図が相対的に押し出された展開に変わったように思う。実際,鹿実は前半から見せていたサイド攻撃をさらに有効なものにすべく,後半立ち上がりから攻撃に積極的に人数をかけ,波状攻撃を仕掛ける時間帯を増やしていく。そんな中,ゴール右からのシュートがクロスバーを直撃するなど惜しい場面も演出した。ただ,中盤の選手が積極的に前線に飛び出す形のポジション・チェンジが少なく,むしろサイド攻撃のポイントを増やすという感じでの人数のかけ方だったために,市立船橋守備陣を決定的に崩すには至らなかった。


 市立船橋の守備ブロックは鹿児島実業の波状攻撃に対しても冷静に対処し,鹿実が人数をかけて攻め込むことで生まれた中盤のスペースを有効に突く形でのカウンター・アタックが機能し始め,市船鹿実ゴールのバーを叩く惜しい場面を作る。しかし,お互いに決定力を欠き,スコアレス・ドローのまま延長戦に突入する。それは差し詰め,慎重な立ち上がりから中盤以降有効な手数は多くなったものの,ガードを外すことができないがために決定的な有効打を放つことができず,12ラウンドまでもつれ込んだボクシング・タイトルマッチのような静かな,それでいて張り詰めた緊張感が伝わる前後半90分間だったように思う。


 ・・・そして延長戦もスコアレスのまま推移し,PK戦に突入。PK戦をモノにした鹿児島実業が初の単独優勝という栄冠に輝いたわけです。


 私がこの決勝戦でまず印象に残ったのは,コーチング・スタッフのチーム・マネージメントの緻密さだったのです。それが,冒頭の結論めいた書き出しの理由でもあります。


 相手チームに対する綿密なスカウティングに基づく戦術分析。その分析に基づいてチームの基本戦術を微調整し選手たちにしっかりと伝達し,守備面,攻撃面での意思統一を図る。これらのことをトーナメント期間中,短期間に実行する。これらはクラブチームがゲームに臨む際の基本的ロジックフローと何ら変わるところはない。決勝戦がこれほどまでに緊張感あふれる均衡状態を続けた大きな要素は,この緻密なマネージメントによる部分が大きいのではないか,と個人的には感じています。


 また,選手たちの身体能力,戦術理解度などに代表される個人能力の高さにも正直驚きました。どんなにしっかりとした基本戦術をコーチング・スタッフが授けようと,実戦的な実行能力(=状況に応じて柔軟に戦術を応用させるだけの能力)が低ければ無意味に帰する。ただそれだけに,これだけのゲームを戦える選手たち,コーチング・スタッフであればこそPKで雌雄を決してしまうのがもったいないのは言うまでもないこと。FAカップに触発された部分もありますが,「引き分け再試合」が見てみたい,というのも偽らざる心境です。そうなれば,コーチング・スタッフが膠着した状況を打開すべく「もうひとつの最適解」をぶつけてくるかも知れない。そう感じながら,ゲームの余韻を楽しんでました。


(・・・とまあ,こんな感じでさっきも書いていたんですよ。まったく参りました。かく言う私が草稿を見事に飛ばして,「再試合」をするハメになるとは・・・。)


 最後に,110分間を戦い抜いた両校の選手たち,そして選手権に参加したすべての選手たちに心よりの敬意を表したいと思います。