正智深谷対啓光学園戦(第84回全国高校選手権・準決勝)。

ノーサイドのホイッスル直前,タッチラインを疾走する啓光学園の選手を見て,あのチームのタイトルに賭ける執念,ディフェンディング・チャンピオンの矜持を見た感じがしました。


 こんばんは。すっかりラグビーモード全開のErnestです。


 さて。準決勝第1試合である,啓光学園正智深谷高校のお話であります。


 この中継を見ていたひとは,恐らくは前半だけでゲームの行方を見切ってしまったのではないでしょうか。それほどまでに前半段階での正智深谷の選手たちの動きは精彩を欠き,ボールへの集散が遅い印象を与えていました。ほぼ5分間隔で啓光にトライを奪われ,前半終了時で31−0。大学レベル以上のゲームであれば,前半で中継映像から離れてしまってもそう問題はない,と私でも思いますが,高校選手権の面白さはここから,なのです。


 後半開始直後からのゲーム運びについて,正智深谷から受けた印象は前半とはまったく異なるものでした。


 ボールへの寄せが前半よりも圧倒的に速くなり,密集ができた時のライン形成,ボールが回っている時のフォワード陣などのボール・キャリアへのサポートなども明らかに反応速度が上がっているな,という感じがしました。実際に,ディフェンス力では評価の高い啓光学園に対して,しっかりと数的優位を保ったまま攻撃を仕掛けていくなど,正智深谷は明らかに「何かが吹っ切れた」感じがしました。


 しかし,それでも正智深谷が試合をひっくり返すことはできなかった。


 結果として,試合をひっくり返すことができなかった要因としては,プレースキッカーがことごとくゴールに失敗したことなども作用しているのかも知れません。けれども「啓光学園」というチーム,その過去における実績を前半意識し過ぎたこと,または啓光を倒せば一気に頂点へ近付けるのだ,と気負い過ぎて心理的に自滅してしまったことに,前半の早い段階からゲームの流れをつかむことができなかった原因があるのではないか,と私は感じています。


 彼らはすでに埼玉県代表を「獲りに行く」レベルのチームではなく,全国選手権という「タイトル」を奪いに行くレベルのチームだし,実際チーム,スタッフもそう思っているはずです。ですが,選手権獲得を是が非でも,という意識がかえって“ディフェンディング・チャンピオン”である啓光学園の姿を必要以上に大きく見せてしまっていたのではなかったか。そんな「ありもしないもの」を見てしまう精神的な呪縛からフィールド上の選手たちが解き放たれるまでに要した時間が,ゲームの流れを自らの手につかみ損ねた大きな要素ではなかったか,と想像します。


 冒頭に触れたターン・オーヴァの場面でのスコアは31−22。


 1トライ1コンバージョンに加えてペナルティゴールを積み上げるか,2トライで逆転可能という得点差だったわけです。とは言え少なくとも,リスクを背負ってでも積極的に攻撃を仕掛けていかなくてはいけない,後がない状況ではあったわけです。ただ,後半のゲームの流れは圧倒的に正智深谷サイドにありました。そんな状況で,ハンドリング・ミスを犯してしまいます。啓光学園正智深谷が犯したミスを見逃さず,ターン・オーヴァを鮮やかに決め,タッチライン沿いを走り抜ける。


 ・・・前半を心理的に優位な状況で(しかも,相手の自滅で)進めることのできた啓光学園にとっては,最後のターン・オーヴァからのトライ奪取はある意味必然だったのかも知れないな,と感じています。ただ,正智深谷が前半から後半のようなパフォーマンスを発揮していてくれたらもっと面白いゲームだった(=啓光学園を沈めることだって可能だった)かも・・・と,かなり埼玉県代表に肩入れしていた観客としては思わざるを得なかったゲームでもあったな,と。


 ちょっと消化不良な気もしつつ,でも結構後半の内容に満足しているErnestでした。