早稲田大学対関東学院大学戦(大学選手権2回戦)。

立ち上がりの時間帯が,双方にとって鍵だったゲームではないかな,と見ています。


 早稲田からすれば,リズムを自分たちにしっかりと引き寄せておきたかった時間帯であるはずです。試合をどちらが主導権をもって動かしていたか,という側面から見れば,立ち上がりは間違いなく早稲田のものでした。対する関東学院からすれば,相手が引き寄せにかかっている主導権を,なんとか自分たちの方向へと引き戻す,あるいはそれ以上に傾かないように踏み止まらなくてはいけない,そんな時間帯でもあったはずです。


 この時間帯を,結果としてどのように使ったのか。


 80分という時間枠から見れば,小さな要素かも知れない時間帯ですが,実際にはかなりの大きな鍵となった時間帯ではないか,と見ているわけです。日曜日のお話ですから,ちょっとばかり時間が経過しておりますが,秩父宮での2回戦,早稲田と関東学院のゲームについて書いていこう,と思います。


 まずは,早稲田の印象から書いていきますと。


 厳しい書き方になるかも知れませんが,立ち上がりの時間帯がゲーム・マネージメントに隙を生じる,そのきっかけになってしまったかな,と感じるところがあります。ごく立ち上がりの時間帯で試合の主導権を掌握して,PGから6点のリードを奪います。この段階で,自分たちの形でゲームを動かせるという感触を「持ってしまった」のではないかな,と感じる部分があるのです。
 攻撃的な側面でこの試合を振り返るならば,早稲田は相当程度,自分たちが描こうとするラグビーをフィールドに表現できていたのではないか,と思います。パディングが施されたポストが効果的なアシストをしていた,などという局面もありましたが,基本的にはBKの速さ,鋭さをしっかりと引き出すキックパスを繰り出し,フィニッシャーもそのキックパスに対して早く,鋭く反応しながら関東学院のディフェンスを切り裂き,トライを奪取していました。この攻撃を見る限り,確かに関東学院とは少なからぬ「僅差」があるな,と感じました。しかしながら,立ち上がりの時間帯を経過すると,関東学院の攻撃,あるいは守備応対に対して,後手を踏む局面が多くなってきたように感じます。相手に対して,攻撃の起点を提供するようなエリアで,ファウルであったりミスを犯すことが多くなっていく。それだけ,関東学院のプレッシャーが厳しく掛かるようになってきた,とも言えるでしょうが,ファウルがリズムを相手へと譲り渡す,そのきっかけになってしまったかな,とは感じられるところです。そして,3トライ3コンバージョンを奪われる形でゲームを折り返すことになるわけです。
 狙うラグビーの明確さ,攻撃面での鋭さなど,見るべき要素は確かに多かった。そう思う反面で,ゲーム・マネージメントの側面で隙が生じてしまったことで,リズムを相手に譲り渡す時間帯が,特に前半において長かったことが,この試合を決定付ける要素になったように思うのです。


 対して,関東学院であります。


 序盤の段階で6点のビハインドを背負いはしたけれど,決して動揺しなかったことが,大きな鍵であったように見ています。序盤だけを取り出してみれば,早稲田がリズムを掌握する時間帯だけが積み上がってしまうかも,などという雰囲気さえありました。しかし,彼らは決して序盤の時間帯だけでこの試合を判断していなかった。早稲田が表現しようとするラグビー,その形に真正面から対峙するのではなくて,自分たちが表現しようとするラグビーをしっかりとぶつけようとしていたように感じます。リズムを早稲田に奪われていた時間帯には,なかなか自分たちが狙う形でボール・コントロールを奪い返すことができなかったように感じられますが,守備応対面での微調整が効いてきたのか,守備応対面の鋭さ,ボール・コントロールを自分たちの形で取り戻す局面が増えていくことになり,攻撃面においても自分たちの形を表現できるようになっていく。BKが持つ速さであったり鋭さは,確かに早稲田と比較してしまうと,という部分があるし,縦に早稲田ディフェンスへとチャレンジしていく,という形は少ないにしても,FWとのバランスを生かしながら相手ディフェンスを揺さぶっていく,という形へと持ち込むことができていたように感じます。相手に傾きかけた主導権に対して,冷静に自分たちの形へと相手を引き込むために何を微調整していくべきか,チームとしての方向軸が明確だったことが,早稲田から主導権を奪い返し3トライ3コンバージョンを奪取することになる,その鍵だったように感じるわけです。



 早稲田と,関東学院を分けたものが何だったか,と考えてみるに,決定的な要素があるようには感じられません。やはり,「僅差」と呼ぶべき要素であるように感じます。


 加えて書けば,カップ戦はやはり,心理面が試合に及ぼす影響が大きいように感じられます。かなり早い段階で試合の主導権を掌握し,心理面でも優位に立っていてもおかしくはない早稲田が,その優位性を生かせずに後手を踏んでしまう一方で,関東学院は早稲田に掌握されかけた主導権に対して,大きく動揺することがなかった。チームとして,心理面での安定性を保つことができたことが,相手に傾きかけた流れを引き戻し,試合全体を決定付けることになるリードを奪うことにつながった。


 カップ戦が持っている魅力(このことを裏側から見れば,「怖さ」とも表現できるはずですが。)は,ラグビーフットボールであろうとアソシエーションであろうと変わるところはないな,とごく当然のことをあらためて思った,そんな試合でありました。