対柏戦(11−34)。

熟成度が明確にピッチに投影されたゲーム。


 表現すべきフットボールがどのようなものなのか,しっかりと共有されているチームと,約束事を落とし込むための時間が圧倒的に不足していたチームと。チーム・ビルディングをゼロから,ともすればマイナスに振れていたかも知れない状態からやり直し,さらにはリードタイムが不足しているのに新たなフットボールを形にしてきた,という意味では指揮官の手腕に敬意を表したいのですが,それでもやはり,やりたいフットボールが明確に継続されてきたチームとの対戦では,熟成期間の不足が表面化してしまう。そんな印象を持たざるを得ませんでした。


 いつも通りに,の柏戦であります。


 今節,付け入る隙があるとすれば,相手の心理面ではなかったか,と思います。たとえば,(フットボール的には褒められる話ではないとしても)試合を壊し気味に動かし,前半段階をスコアレスで折り返す,という方向性はあり得るかな,と見ていました。ゼロトップ,という戦術要素も守備ブロックの安定性を最優先要素として考える,相手守備ブロックを焦らすような形でボールを動かし隙を狙う,という戦術意図が表現されたものか,と見ていたのです。


 しかし実際には,相手が意図するリズムに持ち込まれたような印象が強く残っています。


 ボールを動かす,という部分が機能するとして,そのエリアは最終ラインからセントラル・ミッドフィールドあたりに限定されていて,低い位置から攻撃リズムを変化させる,そのきっかけを相手の積極的なファースト・ディフェンスによって潰されていた,という印象です。特に印象的だったのは,アウトサイドにパスが繰り出されたときの相手の対応です。ウィンガーへのマーキングが徹底されていたことでボールを収めてから相手に数的優位を構築されるまでの時間差がそれほどありませんでした。攻撃リズムを変えようとしても,攻撃面でのギアを切り替えるタイミングでボール・コントロールを奪われているから,守備ブロックとしてのバランスはなかなか整わない。加えて,今節は守備バランスが不安定な時間帯がかなり長かったように感じます。CBとセントラル・ミッドフィールドで描かれる三角形,その形が最適な形に収まっている時間帯が短く抑え込まれてしまった。セントラルが引っ張り出されることで中央のエリアを使われる形になるし,この中央に生じてしまうスペースをどのようにしてカバーするのか,という部分で曖昧な要素を残してしまっていたから,なかなか相手のリズムから抜け出せない。


 さらには,今季課題となってきたセットピースでの守備,その不安定性が今節を決定付ける要素として作用してしまった。今季の柏はセットピースからの攻撃,得点奪取が特徴として位置付けられるようですが,であればこそ最も隙を見せてはならない局面であったはずです。しかしながら隙を突くのではなくて,隙を見せてしまったことでこの試合をより難しくしてしまった。そんな状態でハーフタイムを迎えることになります。


 この試合で,使い切れなかった鍵があるとすれば,柏木選手のヘッダーによってビハインドを縮めてからの時間帯ではなかったでしょうか。この時間帯を,使い切れなかったこと,相手からリズムを奪いきれなかったことで,試合を決定付ける追加点を奪われる,という流れへと結び付いていく。


 ごく大ざっぱに振り返れば,このようなものですが。


 やはり,「確信」を深めるための時間が圧倒的に不足していたのだな,という(ごく当然のことを)あらためて認識させられた,そんなゲームだったように感じます。相手は,パス・ワークとフリーランがしっかりとピッチに表現できていたし,その2つの要素がしっかりと結び付いていました。対して浦和は,この2つの要素に少なからぬ断絶が感じられます。フリーランを仕掛けても,パスを収められるのかどうか,確信を持ちきれない。持ちきれないから,どうしてもパスを「待って」しまう。ボールを呼び込むような動きを,ポジションをそれほど変えることなく繰り返しているから,相手からすればボールの獲りどころを絞りやすい状態になっている。
 パスを繰り出すフットボーラーからしても,パスを受けるフットボーラーが視界に収まるような動きを繰り返してはくれないから,どうしても厳しいタイミング,厳しいエリアへのチャレンジ・パスを繰り出さざるを得ない局面ができてしまって,そのパスが相手守備ブロックに引っ掛かる局面が増えていってしまう。


 どう動けば,ボールを呼び込める(パスを繰り出せる),というように,戦術的な約束事の裏付けがないから,確信を持って動き出す,という形をチームとして表現しきれない。今季,課題として付きまとってきた要素が,やはり最終節にあってもピッチから見えてしまった,という印象を強く持つのです。戦術的な基盤,チームが拠って立つべき約束事がどれほど重要なものなのか,嫌というほど痛感させられたシーズンでしたが,最終節はその縮図,とでも表現すべきものではなかったか,と感じます。