EV−STER。

全長で170mm差であり,全幅だと20mm差であって。


 何とも微妙な差ではありますが,意外に大きな意味を持っている数字かも知れない,と思います。170mmが軸間距離に直接反映される数字なのだとすれば,直進安定性などに影響を与える数字ですし,20mmはサスペンション・ジオメトリーの最適化に大きく関わってくる数字となるはずです。ホンダはシンプルにストラットを採用するケースは少なくて,ダブル・ウィッシュボーンを採用してくるケースが多いように思います。であるとすれば,アームの長さが実効ストロークに与える影響は決して小さくありません。積極的にサスペンションを動かしてメカニカル・グリップを,という方向性を狙うのであれば,サスペンション・ジオメトリーの最適化は決して軽視できる話ではない,と思うわけです。


 もちろん,この数字を切り詰めてくる可能性もゼロではないかな,とは思いますが,そのときにはモータ出力も47kWに抑えられることになるでしょう。個人的には,規格に縛られない形でライトウェイト・スポーツなEVを楽しんでみたい,と思いますね。


 今回はフットボールを離れまして,ホンダさんのプレスリリースをもとに,東京モータショーに出展されているコンセプト,“EV−STER”について書いてみよう,と思います。



 では,ディメンションの話を続けてみましょう。


 170mm,あるいは20mmの差と書きましたが,比較対象は軽規格であります。軽自動車はディメンションの設定限度が決まっていて,その限度をどれだけこのコンセプトが超えているのだろうか,という比較をしてみた,というわけです。オフィシャル・フォトを眺めてみる限り,170mmはなかなか切り詰めるのが厳しいかな,と感じる数字です。フロント・オーバーハングを切り詰める,というのがひとつのアプローチかな,とは思いますが,いわゆる受動安全性などを考えると,ギリギリまでオーバーハングを切り詰めるというのは決して理想的な解決法ではないな,と思います。では軸間距離であったりサスペンション・ジオメトリーの調整を通して軽規格に,という方法論を持ち込むとすれば,理想的なジオメトリーを無理に変更する可能性もゼロではない,ということになってしまいます。
 また,見逃せないのがディメンションのデザインに与える影響,です。
 たとえば,ビートの全幅がこのコンセプト程度に広がっていれば,低く構える印象は相当に強まったのではないでしょうか。たかだか20mm程度の話ですが,より強くスポーツ性を訴求できるデザインが実現したかな,と感じるのです。そんな視点で今回のコンセプトを見ると,物理的な制約を意識したデザインではないな,という感じです。フロント・セクションを見ると,最近のホンダ,そのデザイン要素と共通する部分を強く感じますし,面構成にしても軽自動車の制約を受けていては描けない,しっかりとした量感を表現してきているように感じます。であれば,ビートよりもちょっと大きくて,でもCR−Zよりもちょっと小さめ(かつてのCR−Xくらいの大きさを持たせている),というポジションに位置付けてきたかな,と見ています。


 もうひとつ。このコンセプトで注目しているのは「後輪駆動」という表現です。


 このリリースを読むまでもなく,動力源はモータであります。となれば,そのモータをどのようにレイアウトするでしょうか。駆動輪が後輪ならば,その駆動輪により近い位置に配置したいと思うのではないかな,と。恐らくはミッドシップ・レイアウトなのかな,と見ていますし,後輪の駆動力を意識してRRレイアウトにより近いミッドシップかも知れないな,などと考えています。コンセプト,にこだわるのであれば,インホイール・モータを左右両輪に配置して,電子制御で差動制限をかけて,などというやり方もあるでしょうが,「量産化」を意識しているとすれば,ここまではやらないかも知れません。


 いずれにせよ。楽しみなコンセプトですし,ホンダさんにはぜひとも,このコンセプトのイメージから大きく離れることなく,量産型モデルをリリースしてほしい,と思っています。