接近、展開。

いささか,ラグビーフットボールな単語であります。


 一時期,岡田さんが持ち出した言葉でもあり,そちら方面からこれらの単語に触れた,という方もおられましょうが,もともとは大西さんが構築した理論であります。であるとすれば,ひとつの要素が不足しています。「連続」であります。


 その通り,ではあるのですが。個人的な意図は別にありまして。


 ラグビー的な考え方をそのままフットボールに,ということではなくて,これらの単語をちょっとだけ借りて,「浦和のフットボール」について思うところを書いてみよう,というわけです。


 さて。「接近」であります。この用語,フットボール的には“スモール・フィールド”が最も近い言葉になるか,と思います。11スペックなフットボールで,「狙って」構築されたスモール・フィールドはどれほどあるかな,と。そこで,もうひとつの「展開」なのです。もともと展開している状態から接近していく,あるいは狭いエリアから展開していく。そんな「伸縮」がなかなかないな,と思うわけです。


 浦研プラスで福田さんが指摘しているように(とは書きましたが,有料コンテンツにかかわる話ですから,明確に福田さんのニュアンスは書かないでおきます。),もともとの距離がどうなのか,はそれほど大きな問題ではないのかな,と思います。個人的には,昨季以前の(ネガティブな)戦術イメージがひとつの極ならば,今季のネガティブな戦術イメージもひとつの極だろう,と。そして,共通項が「硬直した距離」ということになろうか,と。ハンス・オフトな言葉を使えば,“トライアングル”の大きさが変わらないところに問題点があるかな,と思うわけです。


 ジェリコさんがイメージするのは,結構大きめのトライアングルなのだろうな,と思います。対して,先任指揮官が意識させていたのは,小さめのトライアングルでありましょう。この部分に問題が,というのではなくて,このバランスを維持しようと「中途半端にし過ぎる」ことに問題があるかな,と。であれば,“トライアングル”が固定型のまま数季を経過しているのだから,問題の根幹は案外,変わっていないということになりはしないかな,と思っているのです。


 つまり,昨季以前は小さなトライアングルだけに意識が強く傾いてしまっていて,今季は逆に大きなトライアングルに意識を振り向けようとしているのだけれど,どうも昨季以前のイメージで,トライアングルが小さなものになってしまい,そのトライアングルを「広げる」ことが難しい。広げて縮めて,縮めて広げて,というシークエンスが意味を持つはずなのだけれど,そのシークエンスが機能しない。攻撃方向での距離感と,守備応対方向での距離感とが悪い意味で同じ感覚だから,ファースト・ディフェンスの掛かり方があまりに不安定になるし,攻撃面で言えば,サポートに入っていいのか,それとも距離を置くべきなのか,という判断を迷わせるひとつの要因になってしまう。



 イニシャルをどこではじめるか,という部分で言えば,ジェリコさんの狙うフットボールが表現されているとは言いがたいし,トライアングルをしっかりと伸縮させられているか,と見ると,今度は中途半端にジェリコさんのフットボールを意識し過ぎてしまっている,そのネガティブが出てしまっている(=距離を詰めていってもいい局面で距離を詰められなくなる)ように感じられます。ボール・コントロールを奪い返した直後にジェリコさんのフットボール,大きなトライアングルが描けているか,がひとつの判断要素になりそうですし,ボールを動かしているときは小さなトライアングルがいつ広がるか,逆に小さなトライアングルがどのタイミングで広がるか,がひとつの判断要素になりそうな感覚を持っています。