「強さ」の前提。

速いけれど,強くはない。


 レーシングな世界で使われる言い方,であります。


 かつて,グループCでそんな評価を受けたファクトリー・チームがありました。確かに,予選段階に限定してみるならば,国際舞台にあっても存在感を示すことができてもいた。好意的に考えれば,「強さ」への足掛かり,重要な足掛かりのひとつを持っていた,と評価することもできるでしょう。エンジン性能であったりシャシー・エンジニアリング,あるいは空力性能などという側面で,「速さ」を裏付けられるだけの能力を持っていた,と見ることができるからです。
 ただ,残念ながらこれだけでは足りなかったのです。
 レースは予選だけで完結するわけではありません。あくまでも予選は,ダミー・グリッドの位置を決めるだけのものです。コントロール・ラインを跨いでしまえば,「速さ」だけが「強さ」を導くわけではない。さまざまな要素が「強さ」を導くために必要となってきます。そんな要素が,当時のファクトリー・チームには不足していた,と見ることができるのです。たとえば,チーム全体としてどのようにレースを戦うのか,という戦略が立案されてもいなかった。そして,実際のレースでは潰し切れなかった,つまりは準備段階で問題を出し尽くせなかった,と思われるトラブル発生によってポジションを崩すのみならず,リタイアを余儀なくもされる。レーシング・マシン,その「素性」として悪くないものがあったとしても,その素性を長時間にわたって安定して表現させるための前提条件が欠け落ちてしまうと,結局は「速い」だけに終わってしまう。


 さて。かなり長めにマクラを用意しましたが,浦和はどうだろう,と。


 11スペック,その素性は決して悪くない,と見ています。タイミングなどを考えれば,現任指揮官とのディスカッションを通じて,というよりも強化サイドが主導した形でしょうが(それだけに,ポジションの重心が攻撃方向に傾く形で強化されているように感じますが),ファースト・チームが分厚さを取り戻してきている,とは感じます。フットボーラーをレーシング・マシンの構成要素にたとえるのは申し訳ないけれど,なかなかのレーシング・エンジンやギアボックス,そしてサスペンションを用意できたかな,とは感じるところです。ではありますが,フレーム(戦術的な約束事)が変更を受けていますし,そのフレームを使いこなすまでにそれなりの時間が必要だろうこともある程度織り込むべきかな,と感じています。今季,主戦パッケージとなるだろう4−3−3を想定すると,ミッドフィールドの構成がまずはひとつの鍵かな,と感じます。昨季のようにセントラルが2,アタッキングが1という形をベースに置いているだろうと感じますが,アタッキングが2,セントラルが1もひとつのオプションとして意識しているかな,と。ミッドフィールドの戦力をどのようにして生かしていくか,が11スペックを動かすためのひとつの要素かな,と思うのです。
 そして,昨季からの変更点が,ウィンガーでありましょう。昨季までは明確にウィンガー,というものではなく,トップとの距離感を意識したアタッキング・ミッドフィールド,という印象でありましたが,役割が変化してきたし,仕掛けることがより強く求められてきたな,と感じます。加えて,局面での数的優位を意識したダブル・アウトサイドではなく,距離感を意識した関係性を,となれば,縦の変化(ポジション・チェンジ)はタイミングを狙い澄ます必要性が出てくるし,ポジション循環でのタイミングという側面は恐らく,セントラル・ミッドフィールドにあっても鍵を握ることになるのかな,と感じます。


 11スペックが持っているはずのポテンシャルを,チーム・パフォーマンスとしてスムーズに引き出すためのセッティングが,どの段階で整ってくるか。PSMを2ゲーム経過した段階で見ると,まだスイートスポットを探り当てた,という感触は薄く,ファースト・チームの持っている「個」の部分でスイートスポットとの距離を埋めている,という感じでした。


 11スペックが持つ「個」だけが強く印象付けられてしまう状態では,恐らくは「強さ」がしっかりと表現できる段階には近付いていない,ということになるでしょう。逆に,「個」が戦術的な約束事,という枠の中で存分に表現されるようになれば,「強さ」を表現できてきている,となるのかな,と。開幕節までのリード・タイムは決して長くはありませんが,どこまで今季型の戦術が浸透し,自然とピッチに表現できるようになるか。この長くはないリード・タイムが,かなり大きな意味を持っているように感じられます。