浦和にとってのエリックは。
まだまだ,戦闘態勢を崩してはいない。
いないし,あの小さなカップ,小さいけれど歴史を持っているカップはACLへの扉を開けるための鍵なのだから,崩すことなどできもしない。であれば,最も大事な時間を過ごしているはずだし,そうあってほしいと思っておりますが。
同時に,2011シーズンに向けて,クラブは動き出しています。根幹に関わる部分で,(少なくとも現段階においては)いささか曖昧なメッセージしか打ち出せていないという部分に不満を持たざるを得ないわけですが,それでもクラブがジャンプアップを図ろうとしている,という姿勢は受け取ることができる。
ジャンプアップを仕掛ける。
クラブ・マネージメントにあって,最も難しい要素かも知れないな,と感じます。闘う基盤を整える,そのためにチカラを溜め込む時期も確かに重要なのだけれど,そのチカラはしっかりとしたジャンプをするために蓄えられるべきで,いつまでも屈んでいる必要性はない。その通りですが,どこまでチカラが溜まってきているのか,どの位置までのジャンプを狙うのか,という要素が明確に共有されていないと,ジャンプを仕掛けようにも思うようなジャンプが仕掛けられない可能性も孕みます。
であれば,クラブがすべきことはある意味シンプルで。
「闘う姿勢」をファースト・チームに浸透させることを意図して,ペトロを浦和に帰還させたのであれば,「闘う姿勢」がしっかりとピッチに表現できるように,100%のサポートを敷くことでしょう。
冷静に考えれば,浦和のポジション・バランスはまだ安定しているとは言いがたいものがあります。加えて書けば,オン・ザ・ピッチでチームをコントロールすることができるフットボーラーが不足しているようにも感じます。ときにチームを落ち着かせ,ラッシュをかけるべき局面にはチームに刺激を与える。そんなフットボーラーがロブソン・ポンテだったと思うのですが,2007シーズン最終節の影響からは逃れられなかったように感じるところがあるし,チームには彼の役割を負担できるようなフットボーラーがなかなか見当たらなかったようにも感じます。得点力であったり機動力,という側面からの補強も重要かも知れませんが,チームをコントロールするという意識がピッチに伝わる,そんなフットボーラーも必要だろう,と思います。
ちょっと前にも書いたか,と思いますが,ファージーズ・フレジリングスがアカデミーからファースト・チームへと昇格してきた時期,その時期と重なるようなタイミングに,ユナイテッドはエリック・カントナを獲得しています。また,サー・アレックスは“インディアン・サマー”な時期に差し掛かっているのではないか,と思われていたテディ・シェリンガムやフットボーラーとしてのピークを過ぎたのでは,と見られていたマイケル・オーウェンを獲得してもいます。当然,彼らの持っているパフォーマンスがユナイテッドにとって意味がある,という背景がなければ獲得へと動くことはないでしょうが,それだけでもないはず。彼らの「経験」がチームに化学変化のきっかけとして機能することを期待してはいなかったかな,と思うのです。
浦和にとって,エリック・カントナになれるようなフットボーラーは誰だろう。あるいは,シェリンガムに位置付けられるフットボーラーは誰になるだろうか。そんな視点が,この季節に見えてくるといい,と思うのです。