分離分割。

フットボール・クラブであり,スポーツ・シューレであり。


 そんなクラブの姿を,犬飼さんは追い求めたのでしょう。クラブ・メンバーが,競技の垣根を越えて,そして年代を超えてクラブハウスに集う。学校コミュニティではない「縦」関係を,クラブ文化の中で感じてもらう,その第一歩をレッズランドとして形にした。Jという発想,その出発点がドイツのスポーツ・シューレだということを思えば,Jが描く理想像への第一歩,とも評価できる。
 浦和が,このような形に踏み出したことは,決して過小評価されるべきことではない,と思っています。ただ,「現段階において」どのような形態がいいのか,理想に近付くために「現実的に」選択し得る手法は何なのか,冷静に考えてみる時期かも知れない,とは思います。


 実際に目を通された方も多いかな,と思いますが,水曜日のエル・ゴラッソ紙(944号)には浦和番である古屋さんがまとめた,かなり長いコラムが掲載されています。
 本来ならば,シーズンが終了していない時期に,クラブ論を書くのは本意ではありませんが,時機を失っても,と思いますので,今回は古屋さんのコラムを下敷きに書いていこう,と思います。いささか長めとなりますので,折りたたむことにします。


 さて。古屋さんのコラムでありますが。


 ごく大ざっぱに要約すれば,レッズランドやハートフルの活動が,ファースト・チームに対しての圧迫要因になっている,と古屋さんは指摘します。プロフェッショナル以外の活動に割かれる費用が大き過ぎて,結果としてプロフェッショナルの活動を最適化できる水準を下回る活動資金しか確保できない。ファースト・チームが急激にダウンサイジングの方向に動いた,一方で機動的に戦力補強を仕掛けられなかった背景には,資金面での問題がある,というわけです。
 なるほど,と思う要素は確かにあります。たとえばハートフルの活動は,ACL参戦時から浦和,あるいは埼玉県内という枠を大きく飛び越えて,海外までを守備範囲とするようになっています。ACLに付随して,というのであれば理解もできるけれど,果たして現状でここまでの活動範囲が必要なのだろうか,と。


 古屋さんは「事業仕分け」という言葉を持ち出すことで,方向性の見直しを提案されています。
 純然たる可能性で考えるならば,「全面撤退」(それっぽく書けば,「事業廃止」)という選択肢も取り得るものとなりましょうが,ちょっと違った見方もできるように感じます。タイトルにも掲げましたが,「分離分割」,付け加えるならば分離分割の前提として,「選択と集中」を意識するべき時期に差し掛かっているのではないか,と思うのです。


 ひとつのヒントは,湘南である,と思っています。つまりは,別法人化によってクラブの活動規模をダウンサイジングするとともに,地域貢献という目標をより明確化させる,という方向性もあり得るのではないか,と思うのです。


 まず,「フットボール・クラブとしての浦和」に何が必要なのか,求められる要素とは何か,という視点から見れば,いささか組織としての方向性が拡散してしまっている,と評価するのがフェアでしょう。経営状態を考慮して若手主体の戦力を構築する,のではなくて,若手にとってポジティブな刺激をもたらすベテランの重要性を考慮,バランスを意識して戦力を構築する。そんなリクエストを本来,フォルカー・フィンケに対してするべきではなかったか。そのための裏付けが欠けていたのだとすれば,結果責任として指揮官だけが,という話にはなりにくい。
 続いてレッズランドの活動を考えるならば,地域貢献という側面を強くするものであり,ハートフルを考えると育成,よりももっと初期段階,フットボールという競技のプロモートであったりグラスルートへの働き掛けとして位置付けられます。長期的に,フットボール・クラブが会員からの定期収入である程度の活動予算を確保できるようになれば,クラブ本体でこれらの活動をすることもできるでしょうし,逆に必須項目として地域貢献,地域還元をしていかないといけないと思います。ですが,地域貢献や地域還元に関する活動は「営利社団法人」という形態とは親和性が高いとは言えないところがあります。大きく利益を生み出せるような活動ではないし,古屋さんが指摘するように,活動範囲を無制限に広げてしまえば,プロフェッショナルとしての活動に振り向けていいはずの活動予算が,営利を求められない(求めにくい)活動に回ってしまう,という本末転倒な事態を招くことにもなります。
 古屋さんの指摘を前提に考えるならば,現段階において,浦和の最優先項目はファースト・チームの活動を最適化させることであって,そのための組織を再設計すること,になるはずです。そのときに,ファースト・チームには直結しないのだから不要,というのではなくて地域にもっと積極的に関わってきてもらうことを意識して,特定非営利活動法人化(NPO化)を模索してもいい,と思うのです。普及活動や他競技へのコミットをNPOに移管した,湘南ベルマーレのあり方が参考になるのではないか,と思うわけです。三菱でもなく,パートナーとの関係を強くするものでもなく,ましてや本体に過大な負担を強いるのでもなく。地域に根ざす形,地域により積極的に関わってきてもらえる形を,本体とは違った形,本体と切り離した形で描いていくのもひとつの方法論ではないか,と思うのです。地域で支える形が明確になれば,たとえば海外までを守備範囲とするハートフルも,自然と範囲が特定されていくはずです。


 理想を掲げるのは,重要なことです。ですが,理想との距離感を意識しながら現実を把握すること,理想をそのまま掲げ続けるのではなくて,現実と折り合える形,理想への道筋を見失わない,踏み外さない折り合い方を模索するのも,同じように重要なことではないかな,と思います。
 イビツァ・オシムさんや岡田武史さんの仕事を見るまでもなく,フットボール・コーチ(マネジャー)に求められる資質だとされますが,同じ資質がクラブ・マネージメントに携わる,すべてのひとに厳しく問われる,と見るべきでしょう。


 古屋さんが指摘する「事業仕分け」,恐らくは浦和にとって不可欠な過程になるものと感じます。ただ同時に,何よりも先駆けて仕分け対象とすべきは,クラブ・スタッフひとりひとりの意識ではないか。数季時計の針を巻き戻すかのように,スポーツ・メディアを通じてクラブを動かし,クラブに関わるひとたちの意識を誘導しようとする,「関係者」と呼ばれる人間たちの意識を,と思うところです。