対山形戦(10−28)。

ダイアゴナル・ランにせよ,オーバーラップにせよ。


 「縦」に仕掛けていく,という姿勢が表現されているときは,相手守備ブロックに対して脅威を作り出すことが「実質的に」できている。しかし。ワンタッチであるとしても,リズミカルであるとしても,ボールが単純に相手守備ブロックの前でトラバースするようなパス・ワークが表現されている,しかもそのパス・ワークだけが必要以上に強調されてしまうような状況は,決して相手守備ブロックに脅威を与える,という意味からすれば好ましくない。


 相手が描いてきたゲーム・プランに嵌り込んだ,という見方もできますが,このことを裏返せば,相手のゲーム・プランに対してオン・ザ・ピッチでどのような対応,修正を掛けていくか,という部分で硬直した部分を露呈した,と言うこともできようか,と思います。まいどの通りに,の山形戦であります。
 典型的なアウェイ・マッチへと持ち込まれたわけですが(何かの精神修養に役立つだろうか,と思うほどに風雨の吹き付けるスタンドでもあったわけですが),守備応対面での問題を指摘するよりは,今節に関しては「攻撃面での硬直性」を指摘するべきか,と感じます。そこで,今回は攻撃面を意識して書いていくことにします。


 では,相手がどのように狙ってきたか,を考えてみれば。


 必ずしも,4−4ブロックを低めに構えて,という形だけで説明するのはフェアではないように感じます。確かに4−4ブロック,局面に応じてトップが下がってきて守備応対に参加,というように,チームに守備意識を徹底させていたことは間違いないところでしょうが,守備意識のウェイトをより重く掛けていたのはセンターではなかったかな,と感じます。セントラル・ミッドフィールドとCBで構成されるエリア,であります。当然,その意図は1トップを徹底的にマーク,ステーションとしての機能を潰すこと。ボールをトップに繰り出し,トップからのリターンをきっかけとして仕掛けのリズムへと持ち込む,という「流れ」を寸断することでゲームの主導権を緩やかに,しかし確実に自分たちへと引き込んでいこう,という意図を表現していたように受け取れたわけです。
 この意図に対して,オン・ザ・ピッチでの微調整,修正が機能不全に陥っていた,という感触を持っているわけです。


 端的に言ってしまえば,今節は「距離感」が中途半端だったような印象を持ちます。


 1トップを意識しての距離感なのか,それとも逆に3トップ,ウィンガー的にアタッキング・ミッドフィールドを意識させているのか。このどちらでもない,ステーションとなるはずの1トップからの距離が中途半端に広くなっているようで,ウィンガーとして積極的にカットインを仕掛けていくようなポジショニングを徹底して意識しているようでもなく。そのために,ステーションにボールを預けてからリターンを,という局面で相手が狙うトランジション,その「型」に嵌り込む,という局面がいささか多かったように感じるのです。
 ミッドフィールドが窮屈,と言うほどにタイトなプレッシングを相手は仕掛けていたわけでもないし,ボールを動かす,という部分ではある程度動かすことはできていた。ただ,ボールを動かす,ということが「縦」に結び付かないし,相手守備ブロックを決定的に揺さぶるような形に結び付いていかない。これでは,ゴールを脅かす,というわけにはいかない。
 ボールを預けるステーションを相手が狙っている,という感覚は恐らく,ピッチでも感じ取っていたはず。そのときに,どのような微調整,修正を掛けられるのか,が問われているように感じます。カットインがなかなか仕掛けられない,縦方向でのポジション・チェンジが機能していかない,という局面で,ダッグアウトからの修正,微調整だけでなく,チームがどのようにして「自律的に」局面打開を図っていくか,と。ボールを預けるタイミングに変化を付けていく,ステーションについてポジション・チェンジを掛けていく。実際,流動的にポジションを変化させている時間帯,トップがアタッキングの位置に下がっていて,アタッキング(センターをイニシャルにするアタッキング)がトップに上がっている局面がありましたが,その局面ではボールをスムーズにステーションに預け,ボールを引き出す,という形が描けていました。この形を偶然ではなくて,チームが「狙って」描き出せないといけない。
 また,スリッピーなピッチ・コンディションであるにもかかわらず,距離感を微調整しているような感覚が薄かった。トップに対してサポートをする距離感,というよりは,中途半端にワイド,逆に中途半端にナローな距離を維持してしまっている印象を持ちます。ドリブルからセンターへとカットイン,縦に仕掛けるという部分でストロング・ポイントを持つアタッキングなのに,そのストロング・ポイントを引き出すような距離感になっていなかった,という印象を持つわけです。


 引いて構えてくる相手に対して,「浦和のフットボール」を表現しきれない。


 パス・ワークを基盤に仕掛けていくフットボールを狙う限りは,どこかで引き受けなければならないリスク,という見方もありますが,であるとしても修正すべき部分,微調整を掛けるべき要素があることは確かです。誰が,ではなくて,チーム全体として相手のゲーム・プランに対して半ば硬直したようなフットボールを展開してしまったこと,局面に応じて自分たちが狙うフットボールを柔軟に変化させる余地を失ってしまったことが,「勝ち点」を積み上げられなかった大きな要因ではなかったか,と思うのです。