「させられて」いる、から抜け出すために。

ボールを回しているのではなく,回させている。


 だから,浦和のポゼッションには脅威を感じない,と。
 対戦相手が残すコメントに,このようなニュアンスのコメントが多かったりします。


 確かに,相手守備ブロックに脅威を与えるようなパス交換は少ないな,と思います。
 ただ,それだけかな,と思ったりもするのです。
 どこかほかに,問題があるのではないかな,と。


 ということを考えながら,千田さんのブログ(イビツァさんの通訳を務められていた方でありますね。)を読んでいると,グサッときました。いまの浦和に不足してしまっている要素が,抜き出されているかのように書かれているような場所を,見つけたわけです。


 千田さんが「おまけ」として扱っておられる,シュトルム・グラーツアーセナルの練習試合であります。


 グサッときたのが,ガンナーズの攻撃,その組み立て方です。3分くらいずっとパスを交換している。そして,アタッキング・サードあたりのタイミングで相手守備ブロックへのチャレンジを仕掛けていくと,ダイレクトを繰り出していくことでさらに崩しにかかる,と。


 やはり,これですよ。


 以前も扱いましたが,スタンフォード・ブリッジにしても,アシュバートン・グローブにしても,攻撃の形は結構相似形です。無理に最終ラインからスピードアップするような攻撃を組み立ててはいない。むしろ,スロー過ぎるのではないか,と思うほどにスローなパス交換をしているタイミングがあります。
 でも,単純にスローなわけではありません。細かいフリーランで相手を揺さぶっているのです。そして,相手守備ブロックが隙を見せるタイミングと,縦にパスを繰り出すタイミングを同期させようと、間合いを詰めながら狙っている。


 スピードアップを仕掛けていく,その前段階が欠けているではないか,と。


 低い位置でのパス交換に,しっかりとした意味付けができていない,ように少なくとも映る。相手のプレッシャーをただ回避しようとして,最終ラインやセントラル・ミッドフィールドでパス交換をしているように映ってしまっているし,難しいポイントへのチャレンジを仕掛けることばかりに意識が飛んでいないかな,と思うのです。
 受ける側も,ボールを迎えにきてしまっている。もったいなさ過ぎるな,と思うのですね。達也選手にしても,直輝選手にしても柏木選手にしても,細かいフリーランは得意なタイプのはずだし,スペースを狙う動きを武器としているはず。その武器を,手放しているような感じです。


 そうではなくて,「回して」いいと思うのです。敢えて書きますが,いまよりもスローに。


 相手がちょっとした綻びを見せるまで,慌てることなくスローに回してほしい,と思うのです。
 ただ,しっかりとトップとの距離感を詰めていこう,と。当然,アタッキング・ミッドフィールドやトップは,小さなチャレンジを繰り返していてほしい。ボールを呼び込む動きを,ボールを迎えにくるような形で表現するのではなくて,相手守備ブロックや相手のマーカーを引き剥がすような形で表現してほしい,と。そして,最終ラインも攻撃の初期段階,そのスイッチに手を掛けている,という意識で縦パスを繰り出していってほしい,と思うのです。


 浦和のスタイル,過去のスタイルを思えば,攻撃のスイッチを持っているのは特定の選手でした。
 いまのスタイルを思うと,誰かにスイッチを押してもらうのを待っていてはいけない、といいますか,そもそもスタイルが機能しないように思えるのです。スローなパス交換は言ってみれば,スイッチの予備段階でしょうか。縦パスを繰り出すタイミングが最初のスイッチ。当然,パスを繰り出す側も,受ける側もスイッチに手を掛けていることになる。この関係性をしっかりとつくっておかないと,機動性を変な方向性で浪費することになりはしないか。


 プレミアシップで展開されるフットボールは,Jとは共通性が,などという見方もあるかもですが,少なくともスタンフォード・ブリッジやアシュバートン・グローブの攻撃の組み立て方は,いまの浦和にとって少なからぬヒントではないかな,と感じます。