清宮監督退任によせて。

敬意を込めて,「敵将」と表現したい。


 サンゴリアス,ではなくてワイルドナイツを追い掛ける立場からすれば,タイトル奪取を阻止されたときの指揮官でもありますし,その手腕は(本来とは違った意味,かも知れませんが)よく理解できるところです。自分たちの強みもしっかりと理解しているけれど,それ以上に対戦相手が持つ弱みを徹底的に分析するところからゲームを組み立て,分かりやすくチームに落とし込むことに長けているな,と。


 理想を隠し持っているかも知れないけれど,フィールドに見えるのは「リアリスト」としての姿。


 そんな指揮官がサンゴリアスから去る,という共同さん配信のニュース(スポナビ)をもとに,ちょっと楕円球な話を書いていきたいと思います。


 早稲田を率いていたときの印象は,理想とリアルを巧みに組み合わせ,チーム・ビルディングをしている,というものでした。チームに,トップリーグという明確な目標を意識させ,大学という枠を超えたチームたらんと意識させた。リソースなどを思えば,どのチームにも,と簡単に言えるやり方ではないけれど,少なくとも大学ラグビーに対して「相当な刺激」になっただろう,と感じます。
 しかし。トップリーグでの印象は「リアリスト」としての顔が強かったように思うのです。裏返せば,チーム・ビルディングが清宮さんが想定するスピードで仕上がっていかなかった,とも言えるでしょうか。確かに,カップ戦(ノックアウト・スタイルのトーナメント)では存分にらしさを見せるのだけれど,チームの持っている総合力が(不完全であるにしても)見えてくるリーグ戦では,安定した戦いをしている,とまでは言えなかった。「強豪」という形容詞を使うことはできても,レギュラー・シーズン首位を奪い得るだけの勝負権を持ったチームか,と言えば,違った答えもありそうです。逆に,リーグ戦で安定した成績を収めることができながら,カップ戦では加速が鈍い,というのもそれはそれでも問題だとは思いますが,それはそれとして。ちょっとだけ,「足らざるもの」を感じるチーム,という言い方もできるかな,と思います。


 清宮さんの問題,と言うよりはむしろ,チームが清宮さんの要求を下回っていた時期の方が多かったのではないかな,と思いますし,2009〜10シーズンの終わり方は,チームの「伸びしろ」が削れてきてしまっているという印象を持つものでもありました。それだけに,「なるほど」と思える結論ではあります。


 チームが持っている能力を最大限に引き出す,ということについて,能力を持った指揮官である,ということを見せ付けられた,というのは忘れようがありません。あのときワイルドナイツが露呈した“ナーバス”さは,残念ながらチームから抜け切ったとは言いかねるところがあります。そんな弱点を,戦術面を通して冷徹に突ける,その手腕はほめる以外にない,でありましょう。


 スポーツ・メディアさんによっては,JRFUの指揮官か,との話もあるとかないとか。国際試合では,リアルな要素も相当に重要でありましょう。こういうリアリスト,大事なピースになるかも知れないな,などと思ったりします。